自民党総裁選をきっかけに年金制度改革の議論が活発になっています

南アルプス 北岳から甲斐駒を望む年金財政

2021/9/30 追記
9月29日、自民党新総裁に岸田文雄氏が選出されました。これにより河野氏の年金案が検討されることはまずないでしょう。厚労省年金局の皆さんはさぞやホッとしていることでしょう…。

自民党総裁選に立候補した河野太郎氏が提示した年金制度改革案をきっかけに年金制度改革の議論が活発になっています。

この件についてネットの記事を集めてみました。

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議論の内容

河野氏の年金改革案は以下の通りです。

  • 公的年金の1階部分の基礎年金を全額税方式の最低保障年金とする
  • 2階部分に積立方式の年金を取り入れる

それに対して、他の3候補者は反対しています。

  • 財源を移行する過程で保険料と税の二重負担が生じかねない
  • 全額を税で負担した場合には12兆円以上の新たな財源が必要になる
  • 今の制度は2100年まで維持できるよう設計されている

読売新聞オンライン 2021/9/22
「年金に消費税」河野案波紋…3候補批判「不安あおる」

NHK NEWSWEB 2021/9/22
自民党総裁選 年金制度改革で主張の違い際立つ

周囲からの批判を受けて、河野氏は自身の年金改革案をトーンダウンさせています。

Bloomberg 2021/9/28
河野氏の年金改革案に批判が集中、本人も「案にはこだわらず」と後退

河野案に肯定的な記事

ダイヤモンド・オンライン 9月22日

河野太郎氏の「年金額の最低保障」構想を実現すべき8つの理由
自民党の総裁選で筆者が注目している政策は、河野太郎氏が提言した「最低限の年金を保障する案」だ。ぜひ実行に移すべきで、国民年金(基礎年金)の財源を全額税金負担にするところからスタート...

アゴラ 9月18日

河野太郎氏の提案する「老人限定ベーシックインカム」
自民党総裁選挙で河野太郎氏が「最優先の政策」として提案している「最低保障年金」は、彼が2009年に提案した改革案と基本的には同じだ。これは年金の1階部分を税でまかない、2階部分は所...

河野案に否定的な記事

ヒューマンキャピタル 9月24日

緊急寄稿!大丈夫か、河野太郎!素人論に過ぎる年金改革案
9月29日の投開票が迫る自民党総裁選。候補討論では「年金問題」が重要なテーマとなり、独自の改革案を唱えた河野太郎氏に注目が集まった。実は年金にも詳しい海老原さん、「一見もっともらし...

論座 9月27日

河野太郎、岸田文雄両氏と田村厚労相、3氏の年金改革案を読み解く - 高橋義憲|論座 - 朝日新聞社の言論サイト
にわかに盛り上がる年金制度改革論議 私は、ファイナンシャル・プランナー(FP)として、一般生活者の皆さんのライフプランニングのお手伝いをしています。年金に関しては、「いくらもらえる...

記事を読み比べて…

以下、私見です。

最低保障年金について

消費税率を引き上げて、国民一律に「最低保障年金」を創設するという河野案は一理あると思います。

子供も大人も老人も、学生も自営業者もサラリーマンも無職の人も、貧乏人も金持ちも、消費税という税で生活水準に合わせて税負担するのであれば、ある意味公平なのではと思います。ただ、消費税率の引き上げに国民的合意が得られるのかという疑問があります。

もう一つ、これまで納付した保険料はどうするのかという問題もあります。国民年金1号被保険者は国民年金保険料を納付しています。2号被保険者は厚生年金保険料を事業所と按分して納付しています。30歳の人は10年分、40歳の人は20年分、…というように、基礎年金に相当する保険料を納付しています。その納付分はどうなるのでしょうか。納付済みの部分はすべて2階部分に移すことになるのでしょうか。

さらにもう一つ、資産、収入が一定以上ある人には出さないということです。そのためには個人資産の完全な把握が必要になります。マイナンバーを使って個人資産をすべて把握する必要があると思われます。

2階部分の積立方式について

日本の公的年金は「賦課方式」です。

以前は「賦課方式は少子高齢化に弱く、積立方式は少子高齢化に強い」という考えがありましたが、現在では「積立方式も賦課方式も同じく少子高齢化の影響を受けてしまう」という考えが一般的になっています。

「賦課方式」は変動する経済状態に柔軟に対応できる利点があり、多くの国で公的年金は「賦課方式」が採用されています。河野氏が提唱する「積立方式」は世界の常識からはずれているのではないかと思います。

現在もGPIFで積立金を運用していますが、これはいわば「バッファ機能」で、少子高齢化に備えつつ、賦課方式の結果として資金が余れば積み立て、足りなければ引き出すという利用です。

積立方式に変更するとGPIFの規模をはるかに超えた巨大な年金基金が誕生することになります。誰が責任を持って運用するのでしょうか。あるいは、今の確定拠出年金のように個人の運用に任せるのでしょうか。それでは、社会保障としての公的年金制度から逸脱してしまいます。

仮に賦課方式から積立方式に切り替えるとなると、両方式を並行させながら長い年月をかけることになると思われます。積立方式の実現性には疑問を感じます。

現在の年金制度の中で改善するべきところがまだまだ多いのでは

2018年以降、年金制度において様々な改革があります。

  • マクロ経済スライドの繰越制度
  • 賃金変動率が物価変動率を下回る場合、年金額を賃金変動率で改定
  • 受給開始年齢を75歳まで繰り下げ可能に
  • 65歳未満の在職老齢年金の支給停止基準を緩和
  • 社会保険(厚生年金保険、健康保険)の適用範囲の拡大
  • 確定拠出年金の利用者拡大

さらに、田村厚労省相は、9月10日に基礎年金部分の目減りを抑える改革案を提示しました。

将来の基礎年金の目減りを防ぐために厚生年金で補填する?
田村厚生労働相が年金制度について発表した内容に関して、2021年9月11日付「朝日新聞DIGITAL」に以下の記事が載っていました。基礎年金の目減り対策、制度改革に着手へ 厚生年金...

更に、次のような課題もあります。

  • 国民年金の45年加入
  • マクロ経済スライドの適用の繰越規定の撤廃
  • 社会保険(厚生年金保険、健康保険)の適用範囲のさらなる拡大
  • 国民年金3号被保険者問題

河野案は実現可能なのか

河野案に否定的な記事の「河野太郎、岸田文雄両氏と田村厚労相、3氏の年金改革案を読み解く」の中で高橋氏はこう書いています。

まず、河野氏の改革案ですが、これはトンデモ案なので、これ以上検討の価値はありません。しかし、河野氏が総裁選に勝利し、首相になった場合には、厚労省の年金局はいろいろ振り回されることになりそうです。このトンデモ論に厚労省の限られたリソースを取られるのは本当にムダです。

河野案を実現するための遠い遠い道のりを考えると、練りに練って熟成させてきた今の年金制度の中で、より良い方法を探っていくのが現実的なのではと思います。