マクロ経済スライド調整とは、現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて年金額を抑えるしくみです。
令和6年度(2024年度)の調整率は-0.4%が適用され、その結果年金改定率は+2.7%になりました。
マクロ経済スライド調整の仕組みについてまとめました。
令和6年度調整率-0.4%の算出
マクロ経済スライド調整率は以下の2つの数値を乗じて算出します
- 公的年金被保険者数の変動率
令和2~4年度の平均:-0.1%(0.999) - 平均余命の伸び率による調整
一定値:-0.3%(0.997)
- マクロ経済スライド調整率
0.999×0.997=0.996 ⇒-0.4%
この数字は、近似的に (-0.1%)+(-0.3%)=-0.4% として求めることができます。
年度ごとの調整率の推移
▼スライド調整率の推移
年度 | 被保険者数 | 平均余命 | 調整率 |
---|---|---|---|
2016 | -0.4% | -0.3% | -0.7% |
2017 | -0.2% | -0.3% | -0.5% |
2018 | 0.0% | -0.3% | -0.3% |
2019 | +0.1% | -0.3% | -0.2% |
2020 | +0.2% | -0.3% | -0.1% |
2021 | +0.2% | -0.3% | -0.1% |
2022 | +0.1% | -0.3% | -0.2% |
2023 | 0.0% | -0.3% | -0.3% |
R06 2024 | -0.1% | -0.3% | -0.4% |
マクロ経済スライド調整の適用条件
マクロ経済スライド調整は必ず適用されるというわけではありません。
年金改定率は物価変動率や賃金変動率がベースとなりますが、ベースとなる改定率がマイナスの場合には適用されません。
調整が適用される条件
- ベース改定率がマイナスまたはゼロの場合は適用されない
- ベース改定率がプラスの場合も改定率がゼロを下回る適用はされない
- 2018年度以降、適用されなかった調整率は次年度以降に繰り越す
令和6年度はベース改定率がプラスになったので、-0.4%がそのまま適用されます。
繰越分も含めて適用される場合もある
令和6年度については前年度までの繰越はありませんでしたが、繰越分がある場合はそれも含めて適用されます。
令和5年度については、令和3年度と令和4年度の繰越分も含めて適用されました。
- 令和5(2022)年度適用調整率
令和3年度繰越分:-0.1%
令和4年度繰越分:-0.2%
令和5年度分:-0.3%
(-0.1%)+(-0.2%)+(-0.3%)=-0.6%
調整前のベースとなる改定率については以下の記事を参照してください。
ベース改定率と調整適用の推移
▼調整率適用の推移
年度 | ベース 改定率 | 単年度 調整率 | 適用 | 適用 調整率 | 適用後 改定率 |
---|---|---|---|---|---|
2016 | 0.0% | -0.7% | しない | - | 0.0% |
2017 | -0.1% | -0.5% | しない | - | -0.1% |
2018 | 0.0% | -0.3% | 繰越 | - | 0.0% |
2019 | +0.6% | -0.2% | する | -0.3% -0.2% | +0.1% |
2020 | +0.3% | -0.1% | する | -0.1% | +0.2% |
2021 | -0.1% | -0.1% | 繰越 | - | -0.1% |
2022 | -0.4% | -0.2% | 繰越 | - | -0.4% |
2023 | 新 +2.8% 既 +2.5% | -0.3% | する | -0.1% -0.2% -0.3% | 新 +2.2% 既 +1.9% |
R06 2024 | +3.1% | -0.4% | する | -0.4% | +2.7% |
2017年度までは繰越制度がなく、2016年度と2017年度は「ベース改定率がマイナスまたはゼロ」ということで、実施が見送られました。
調整は2007年度から実施する計画でしたが、実際に実施できたのは2015年度だけという状況でした。
2018年度より繰越制度が始まり、2018・2021・2022年度の調整率は次年度以降に繰り越されました。
2019年度と2023年度は繰越分も含めた調整率が適用されました。
マクロ経済スライド調整の意義
保険料収入について、日本では「保険料固定方式」を取っています。
国民年金保険料は月額17,000円に固定され、物価変動率と賃金変動率により調整されています。
厚生年金保険料は標準報酬額の18.3%(本人負担9.15%)に固定されています。
年金額は賃金変動率か物価変動率のどちらかで改定されますが、賃金変動率が物価変動率に負ける場合は賃金変動率が適用されます。
したがって、公的年金被保険者数が一定で、平均余命が不変なら、保険料収入が賃金変動率に連動して上下しても、年金額も賃金変動率に変動して上下するので、収支のバランスは保たれることになります。
しかし、実際は、将来に渡って被保険者数は減少し保険料収入は減り、平均余命が伸びて年金支出は増えることになります。
そこで、被保険者数の変動率と平均余命の伸び率で年金額を自動的に減額調整しようというのが「マクロ経済スライド調整」です。この調整は年金財政の収支が安定するまで実施される予定です。
以下は、1階部分の基礎年金と2階部分の厚生年金のマクロ経済スライド調整の終了時期を一致させるという試算についての記事です。