国民年金にしろ厚生年金にしろ、保険ということならば、そもそも「モトがとれるかどうか」を考えるものではないのかもしれません。
障害年金や遺族年金は万一に備えるために、老齢年金は長生きリスクに備えるために、それぞれなくてはならないものです。
ただ、老齢年金を何年受け取れば、納付した国民年金保険料や厚生年金保険料を取り戻せるのかは知りたいところです。
この記事では、年金保険料は何年でモトがとれるのかを試算してみたいと思います。
ただし、保険料や年金額は毎年度改定されるので、すべて令和2年度の数字で計算します。すなわち、令和2年度に納付する保険料が令和2年度の老齢年金額の何年分になるかを計算します。
国民年金保険料は何年でモトがとれるか
国民年金の場合は比較的簡単です。
国民年金保険料を40年間すなわち480ヵ月納付すると老齢基礎年金を満額受け取れることになります。
- 老齢基礎年金
=満額×保険料納付月数/480ヵ月
国民年金保険料1ヵ月分が老齢基礎年金満額の480分の1になります。
以下、令和2年度の金額です。
- 国民年金保険料
- 月額 16,540円
- 老齢基礎年金満額
- 年額 781,700円
- 月額 65,141.7円
- 老齢基礎年金満額の480分の1
- 年額 781,700÷480=1,628.5円
- 月額 65,141.7÷480=135.7円
国民年金保険料1ヵ月分16,540円が、老齢基礎年金1ヶ月分の135.7円になります。
- 16,540÷135.7
=121.8ヵ月
≒10年2ヵ月
およそ10年間、65歳から受け取るとして75歳でモトがとれることになります。
厚生年金保険料は何年でモトがとれるか
厚生年金保険料額の計算方法
厚生年金保険料は事業者と本人が折半して納付しています。
厚生年金の保険料は以下の式で算出します。
- 毎月の保険料額=標準報酬月額×保険料率
- 賞与の保険料額=標準賞与額×保険料率
標準報酬月額は、被保険者が受け取る給与を一定の幅で区分して、1等級(8.8万円)から31等級(62万円)までの31等級に分かれています。
標準賞与額は、税引き前の賞与の額から千円未満を切り捨てた金額で、150万円を超えるときは150万円とされます。
標準報酬月額・標準賞与額に乗ずる保険料額は平成29年9月以降固定されていて18.3%です。これを事業主と被保険者本人が折半して負担するので、本人負担額の保険料率は9.15%になります。
厚生年金保険料額(一部)
等級 | 円以上~円未満 | 標準報酬 月額 | 保険料 自己負担 |
---|---|---|---|
1等級 | ~93,000 | 88,000 | 8,052 |
2等級 | 93,000~101,000 | 98,000 | 8,967 |
3等級 | 101,000~107,000 | 104,000 | 9,516 |
: : | |||
31等級 | 605,000~ | 620,000 | 56,730 |
老齢年金額の算出方法
厚生年金保険料を納付すると国民年金保険料と同様に老齢基礎年金の保険料納付月数にカウントされます。
- 老齢基礎年金
=満額×保険料納付月数/480ヵ月
老齢厚生年金の報酬比例部分は標準報酬月額と標準賞与額から算出する平均報酬額を用いて以下の式で算出します。これは平成15年度以降の賞与を含めて報酬額を計算する総報酬制導入後の算出式になります。
- 老齢厚生年金報酬比例部分
=平均標準報酬額×再評価率
×0.005481×加入月数
ここで、再評価率というのは、過去の標準報酬を現役世代の手取り賃金の上昇率に応じて見直すための乗数です。ただし、マクロ経済スライド導入後は年金額の伸びを賃金や物価の伸びよりも抑える乗数の役割もあります。令和2年度の標準報酬にかける再評価率は0.936となっています。
月収20万円の場合何年でモトがとれるか
月収20万円1ヵ月分の場合、天引きされる厚生年金保険料とそれによって得られる老齢年金の金額を計算して、何年何ヶ月で保険料を取り戻せるか計算してみます。
- 月収200,000円
- 14等級 標準報酬月額200,000円
- 保険料自己負担額
200,000×9.15%=18,300
等級 | 報酬月額 | 標準報酬 月額 | 保険料 自己負担 |
---|---|---|---|
14等級 | 195,000~210,000 | 200,000 | 18,300 |
- 老齢基礎年金満額の480分の1
- 年額 781,700÷480=1,628.5円
- 月額 1,628.5÷12=135.7円
- 老齢厚生年金報酬比例部分
- 年額 200,000×0.936×0.005481×1
=1,026.0円 - 月額 1,026÷12=85.5円
- 年額 200,000×0.936×0.005481×1
- 合計年金額
- 年額 1628.5+1026.0=2654.5円
- 月額 135.7+85.5=221.2円
何年何ヵ月でモトがとれるか…
- 18,300÷221.2=82.7ヵ月≒6年11ヵ月
月収20万円の場合の厚生年金保険料自己負担月額は18,300円で、その保険料によって発生する老齢年金の金額は基礎年金を含め月額221.2円となり、6年11ヵ月でモトがとれることになります。
月収と保険料のモトがとれる年月日
月 収 | 等 級 | 標準 報酬 月額 | 保険 自己 負担 | 報酬 比例 月額 | 年金 合計 月額 | モトが とれる 年.月 |
---|---|---|---|---|---|---|
10万 | 2 | 98,000 | 8,967 | 41.9 | 177.6 | 4.02 |
15万 | 9 | 150,000 | 13,725 | 64.1 | 199.8 | 5.09 |
20万 | 14 | 200,000 | 18,300 | 85.5 | 221.2 | 6.11 |
25万 | 17 | 260,000 | 23,790 | 111.2 | 246.9 | 8.00 |
30万 | 19 | 300,000 | 27,450 | 128.3 | 264.0 | 8.08 |
35万 | 22 | 360,000 | 32,940 | 153.9 | 289.6 | 9.06 |
40万 | 24 | 410,000 | 37,515 | 175.3 | 311.0 | 10.01 |
50万 | 27 | 500,000 | 45,750 | 213.8 | 349.5 | 10.11 |
月収が少ない場合、支給される老齢厚生年金の報酬比例部分はもちろん少ないですが、老齢基礎年金の保険料納付月数がカウントされるので、そのぶん短期間で保険料を取り返せることになります。
モデル年金の場合は何年でモトがとれるか
モデル年金とは、夫が平均的な報酬で40年間就業し、妻がその期間すべて専業主婦であった場合の、夫婦2人分の老齢年金額のことを言います。毎年1月に、厚労省が標準的な夫婦二人世帯の老齢年金額として公表しています。2人分の基礎年金額と夫の厚生年金の報酬比例額の合計金額になります。
令和2年1月公表のモデル年金(月額)
- 夫の老齢年金額
- 老齢基礎年金 65,141円
- 老齢厚生年金 90,422円
- 妻の老齢年金
- 老齢基礎年金 65,141円
- モデル年金(夫婦二人分)
- 220,724円
夫の厚生年金保険料の総額
夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)の金額は、40年間の平均標準報酬(賞与を含む月額換算)を438,860円として算出しています。
- 夫の40年分の自己負担総額
438,860×9.15%=40,156円/月
40,156×480=19,274,880円
妻は40年間国民年金3号被保険者として保険料の負担はありません。
何年でモトがとれるか
賃金や物価の変動、マクロスライド調整を考慮しないとすると、保険料19,274,880円で月額220,724円の年金額ということになります。
- 19,274,731÷220,724
=87ヵ月=7年3ヵ月
まとめ
納付している年金保険料が何年でモトがとれるのかと考えるのはあまり意味がないのかもしれません。
ただ、算出した数値を見ていただいたらわかるように、厚生年金は本当におトクな制度です。できるだけ長い期間厚生年金に入ることがとても有利です。
もっとおトクなのは「国民年金第3号制度」です。負担なしで年金がもらえるのですからこんなおトクなことはないといえます。ただし、国民年金1号と比較して、不公平さは否定できません。
政府も夫の厚生年金の被扶養配偶者となっている3号被保険者のパート主婦が、できるだけ厚生年金に加入して2号被保険者となるように制度改正を進めています。