2022年度実施の年金制度改正をまとめました

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2020年5月、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立しました。2022年4月からその改正が実施されることになります。

今回の改正は、「より多くの人がより長く多様な形で働く社会へと変化する中で、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため、短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大、在職中の年金受給の在り方の見直し、受給開始時期の選択肢の拡大、確定拠出年金の加入可能要件の見直し等の措置を講ずる。」という目的で実施されます。

2022年に実施される改正点についてまとめました。

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在職老齢年金の支給停止条件が緩和されます

在職老齢年金制度とは、在職中に老齢厚生年金を受給する場合、年金支給額と報酬額の月額合計が基準額を超えた場合、厚生年金支給額の一部または全部を支給停止にする制度です。

60歳から64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を受給する場合、支給停止基準額はこれまで28万円でしたが、2022年4月から、65歳以上の場合と同じ47万円に改正されます。

例えば以下の場合

  • 年金月額:8万円
    64歳以下で支給される特別支給の老齢厚生年金
  • 報酬月額:34万円
    その月の標準報酬月額+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12
  • 支給停止基準額が28万円の場合
    • 年金支給停止額
      =(8万+34万-28万)×1/2
      =7万円
    • 年金支給額
      =8万-7万
      =1万円

年金支給停止額が年金支給額以上になると、年金は全額支給停止になります。

  • 支給停止基準額が47万円の場合
    • 年金支給停止額
      =(8万+34万-47万円)×1/2
      =支給停止なし
    • 年金支給額
      =8万

年金月額と報酬月額の合計が47万円以下の場合は年金の支給停止がなく全額支給されます。

厚労省の資料によると

厚生労働省の資料によると判定基準額を47万円に引き上げると、65歳未満の支給停止対象者が大幅に減ることになります。

  • 65歳未満の年金受給権者
    120万人(2019年度末)
  • 支給停止対象者
    67万人(55%)→改正後21万人(17%)
  • そのうち全額支給停止
    28万人(23%)→改正後10万人(8%)

今回の改正により、年金を受給しながら働き続ける条件が大きく改善されることになります。

ただし、65歳未満の人を対象にした「特別支給の老齢厚生年金」の支給開始年齢は段階的に引き上げられており、男性は2026年度以降、女性は2031年度以降、「特別支給」はなくなります。

65歳以上の在職者の老齢厚生年金を毎年再計算

現行では、老齢厚生年金の報酬比例部分の金額は、以下のタイミングで、その前月までのすべての加入記録をもとに計算されます。

  1. 特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢に到達したとき
  2. 65歳までに退職して資格喪失したとき(退職時改定)
  3. 65歳時点で在職している場合は65歳になったとき(65歳裁定)
  4. 70歳までに退職して資格喪失したとき(退職時改定)
  5. 70歳になり厚生年金の資格を喪失したとき(70歳裁定)

特別支給の老齢厚生年金の支給額が確定すると、その後在職して厚生年金保険料を納付しても、それが年金額に反映されるのは「退職時改定」または「65歳裁定」になります。

また、65歳になってその時点で老齢厚生年金の支給額が確定すると、その後在職して厚生年金保険料を納付しても、それが年金額に反映されるのは「退職時改定」または「70歳改定」になります。

今回の制度改定では、65歳以降も在職している場合、2022年以降、毎年1回(10月)それまでの加入記録で年金額が再計算され、それまでに支払った保険料が年金額に反映され、老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給額が積み上がっていくことになります。

これを「在職定時改定」と言い、在職者の老齢厚生年金が毎年改定されることになります。

ただし、65歳未満では、この「在職定時改定」は行われません。

年金の繰上げ受給の減額率が0.4%に

年金受給開始年齢は65歳からに設定されていますが、希望により60歳以降1ヵ月単位で繰上げ受給することができます。

現行では1ヵ月繰上げにつき0.5%減額されています。1年繰上げで6%減額、5年繰上げで30%減額となります。減額された年金額は生涯続くことになります。

今回の改正で、2022年4月1日以降に60歳に到達する人を対象として、減額率が1ヵ月あたり0.4%に改正されます。

これにより、1年繰上げで4.8%減額、5年繰上げ24%減額になります。

年金の繰下げが75歳まで可能に

現行では年金の繰下げ受給は70歳まで可能です。

今回の改正で、2022年4月1日時点で70歳未満の人は、最大75歳まで繰下げ可能になります。

繰下げによる増額率はこれまでと変更はなく、1ヵ月繰下げにつき0.7%増額となります。

1年繰下げで8.4%増額、5年繰下げで42%増額、75歳まで10年繰下げると84%増額となります。

厚生年金・健康保険の適用範囲が拡大されます

2016年10月に短時間労働者の厚生年金保険・健康保険の適用範囲が拡大され、次の5要件を全て満たす人は、厚生年金保険・健康保険の対象になりました。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上あること
  2. 雇用期間が1年以上見込まれること
  3. 賃金の月額が8.8万円以上であること
  4. 学生でないこと
  5. 従業員500人超の企業等
    500人以下の企業等についても労使合意に基づき適用可

2と5の条件が改正されます

2022年10月から、2と5の条件が改正されます

2. 雇用期間が2カ月を超えて見込まれること
5. 従業員100人超の企業等
※この従業員数は短時間労働者を除いた人数になります

今回の企業規模要件の拡大で、新たに厚生年金に加入する対象者が45万人になると推計されています。

さらに、2024年10月に「従業員50人超」に改定される予定です。

確定拠出年金の拠出可能年齢・受給可能年齢が引き上げられます

企業型DCと個人型DC(iDeCo)の掛金を拠出できる年齢、受給開始できる年齢が引き上げられます。

企業型DCは70歳まで拠出可能に

現行、企業型DCを導入している企業では、厚生年金被保険者のうち65歳未満の人が掛金を拠出できますが、2022年5月以降70歳未満の人が拠出可能になります。ただし、60歳以降は60歳前と同一事業所で継続して使用されていることが条件になります。

個人型DC(iDeCo)は65歳まで拠出可能に

現行は国民年金被保険者(第1・2・3号)の資格を有している60歳未満の人が加入し掛金を拠出できますが、2022年5月以降65歳未満の人が拠出可能になります。

ただし、国民年金被保険者という条件があるので、60歳以降で実際に拠出可能になる人は、国民年金満期加入月数480ヵ月に足りない国民年金任意加入者、厚生年金に加入している国民年金2号被保険者となります。

国民年金1号及び3号被保険者は60歳でその資格を喪失しますが、60歳以降「任意加入」すれば、国民年金加入月数が480ヵ月になるまで拠出できることになります。

企業型DC・個人型DCの受給開始上限が75歳に

企業型DC・個人型DC(iDeCo)の受給開始時期は、現行「60歳~70歳」の間で選択できますが、公的年金にあわせて、2022年4月より「60歳~75歳」に拡大されます。

企業型DC加入者の個人型DC(iDeCo)加入の要件緩和

企業型DCの事業主掛金上限は月額5.5万円ですが、企業型DC加入者で個人型DCに加入できるのは、労使協定で事業主掛金上限額を月額3.5万円に引き下げた企業の従業員に限られていました。

これは、個人型DCの掛金上限が月額2万円で、企業型DCと個人型DCの掛金合算額を月額5.5万円以下にするための措置でした。

今回の改正では、企業型DCと個人型DCの掛金合算額を管理する仕組みを作り、2022年10月より、すべての企業型DC加入者は、掛金合算額が月額5.5万円以下になる範囲で、個人型DCに月額2万円まで拠出できるようになります。

企業型DC加入者が
個人型DCに拠出する場合

企業型DC
事業主掛金 月額
個人型DC
掛金上限額 月額
3.5万円以下2万円まで
4万円1.5万円まで
5万円0.5万円まで
5.5万円加入できない

ただし、確定拠出年金(DC)と確定給付年金(DB)の両方を導入している企業の場合は、企業型DCと個人型DCの掛金合算額が月額2.75万円以下になる範囲で、個人型DCに月額1.2万円まで拠出できるようになります。

マッチング拠出と個人型DCは選択できるようになる

事業主がマッチング拠出を導入している場合、企業型DC加入者はマッチング拠出しか選べませんでしたが、2022年10月よりマッチング拠出か個人型DC加入かを加入者ごとに選択できるようになります。

年金手帳が廃止されます

年金手帳は、現行、20歳未満で就職した場合、あるいは20歳になるときに発行されますが、この年金手帳が2022年4月以降廃止になり、代わりに「基礎年金番号通知書」という書類が送られる予定です。

現行、年金に関する手続きは主に個人番号(マイナンバー)で行われており、「基礎年金番号」の必要性が薄くなっています。

ただし、「法律施行までに送付された年金手帳については引き続き基礎年金番号を明らかにすることができる書類として利用できる」とのことです。

参考資料

年金制度改革

2020年の制度改正
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/2020kaisei.html

年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00006.html

年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/000636611.pdf

確定拠出年金

厚生労働省
確定拠出年金制度の概要
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/gaiyou.html

iDeCo公式サイト
https://www.ideco-koushiki.jp/