年金部会で第3号被保険者制度が取り上げられています

トピックス

厚生年金保険法及び国民年金法は、5年に一度実施される2024年の財政検証を経て、2025年に改正が実施される予定です。

それに先立ち、2022年10月より「社会保障審議会年金部会」で現行制度の問題点、改正点が議論されています。

この記事では、2023年3月28日に実施された第2回年金部会について、資料と各委員の発言のうち、第3号被保険者制度と被用者保険適用拡大に関連したものを抜粋して取り上げます。

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第3号被保険者とは

第3号被保険者とは…

国民年金の加入者のうち、厚生年金、共済組合に加入している第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(年収が130万円未満の人)を第3号被保険者といいます。

保険料は、配偶者が加入している厚生年金や共済組合が一括して負担しますので、個別に納める必要はありません。

第3号被保険者に該当する場合は、事業主に届け出る必要があります。

日本年金機構用語集より

当日の関連資料

資料についての説明は、年金課長の発言をそのまま抜粋しています。

P16 正規雇用と非正規雇用労働者の推移

16ページは、正規雇用といわゆる非正規雇用の労働者の推移で、1984年をスタートに見ていますが、総数3936万人だったのが5600万人に大きく増えています。

他方で、増えた要因で大きく占めているのは非正規雇用で、一番右側でパート、アルバイト等が増えています。

ここ数年ですと、非正規雇用が減っていてマイナスとなる一方で、正規雇用はプラスになっています。

正規雇用と非正規雇用労働者の推移

P17 雇用形態別就労者数の推移(女性)

次は、男女別、雇用形態別に見た数字になります。

まず、女性が17ページですが、これもスタートは1985年で、大きく伸びているのは赤いところ「パート・アルバイト」です。それから、正規職員も近年増えています。

雇用形態別就労者数の推移(女性)

P18 雇用形態別就労者数の推移

18ページ、今度は男性になります。男性についても、1985年スタートですが、大部分は正規職員で、ここはあまり変わっておりませんが、赤の「パート・アルバイト」も増えています。

この中には、高齢期の方々が「パート・アルバイト」で就労される例が増えている要素があると考えております。

雇用形態別就労者数の推移(男性)

P19 女性の年齢階級別労働力率(M字カーブ)の推移

19ページはいわゆるM字カーブで、1981年の赤が、2021年では緑となり、Mの窪んでいるところがほぼなくなっている状況です。

女性の年齢階級別労働力率(M字カーブ)の推移

P20 女性の年齢階級別正規雇用比率(L字カーブ)

他方で、20ページになりますが、その中身について雇用形態別で見てみると、少し違う形が見えてきます。

先ほどのM字カーブの就業率のうち、赤はそのままですが、青が正規雇用の比率です。

したがって、赤と青の差の部分、乖離している部分は非正規雇用となり、これは年齢階級別になっているので、右のほうで年齢階級が上がっていくにつれて乖離幅が広がっています。この青のグラフの形からL字カーブと言われています。

女性の年齢階級別正規雇用比率(L字カーブ)

P21 昭和60年と令和3年の比較 雇用者の共働き世帯数

21ページは、非正規雇用の増加という点を違った見方で捉えております。

これは1985年との比較ですが、一番左は共働き世帯数で大きく伸びています。

ただ、その内容を見てみると、右側になりますが、奥様がフルタイムというところが微増、奥様がパートタイムというところが大きく伸びていて、共働き世帯数の増加の要因を占めているのは、パートタイム世帯であることがうかがえます。

昭和60年と令和3年の比較 雇用者の共働き世帯数

P22 共働き世帯数と専業主婦世帯数の推移

同じような話ですが、22ページは、共働き世帯数といわゆる専業主婦世帯数の推移を見ております。

スタートは1985年の時点で、青線の男性雇用者と無業の妻から成る、いわゆる専業主婦世帯が多かったものが1990年代に逆転しています。

1985年の時点では、専業主婦世帯のほうが多かったということで、こういうものを背景に第3号被保険者、あるいは基礎年金等が整備されましたが、その後状況が変化してきている点がうかがえます。

共働き世帯数と専業主婦世帯数の推移

P23 共働き等世帯数の推移

23ページは、共働き世帯が増加している内訳について、共にフルタイムというところはそんなに伸びていない一方で、妻がパートという世帯は大きく伸びており、これが薄い青の線です。こういう状況が1985年時点と比べて起きています。

共働き等世帯数の推移

P25 公的年金被保険者数の推移

次に、こういった社会状況の変化を踏まえたものが年金のデータにも現れているということで、被保険者等の状況になります。

25ページになります。

まず、被保険者数の推移で、真ん中が第2号被保険者、いわゆる厚生年金に加入されている方が増えています。

それから、緑の折れ線グラフは全体に占める割合ですが、当初5割ちょっとだったのが、今は約7割に近くなっています。

他方で、それに合わせるように、第3号被保険者、第1号被保険者の割合は減っています。

途中、2000年代の折れ線グラフの変化をみると、2号被保険者の割合が低くなる一方で1号被保険者が高くなって接近しているところがございます。

この一つの要因として、この時期、非正規雇用の方の数が増えており、これが2号被保険者、厚生年金に加入すれば、そのまま増加につながっていきますが、必ずしもそうならない場合には1号被保険者の増加として現れてくるということで、そういうものもあったのかなと見ております。

公的年金被保険者数の推移

P31 第2号被保険者1人当り標準報酬額の推移

31ページ、話はまた現役世代に戻りますが、厚生年金に加入されている方の男女での標準報酬額の推移でして、推移自体は横ばいですが、赤の男性と、緑の女性の間で一定の乖離が見られます。

これは生の報酬総額の月額換算ですので、リアルにもらっている数字になりますが、時給自体に男女差はないので、働き方が影響しているのだろうと見ております。

例えば短時間なのか、フルタイムなのか、あるいは企業規模がどうなのか、職種はどうなのかという点が影響していると見ております。

標準報酬は、厚生年金の年金額にそのまま反映されるベースになりますので、こういう状態が続くと、年金額についても差が出てくる点は留意しなくてはいけません。

第2号被保険者1人当り標準報酬額の推移

P32 第1号被保険者の就業状況

32ページ以降ですが、まず「第1号被保険者の就業状況」でして、第1号被保険者は、自営業、無職、学生の方が主に念頭にありますが、左側の緑の「被用者」が一番多いというのがございます。人数についても同じです。

第1号被保険者の就業状況

P33 第3号被保険者の就業状況

同様に、33ページの「第3号被保険者の就業状況」について、左のグラフですが、いわゆる専業主婦よりも、働いていらっしゃる方が半分ほどいらっしゃるということ。

中でも、今の適用拡大のラインが20時間ですが、この20時間を超えている方が約4割いらっしゃるということです。

それから、全く就業していないとお答えになった方は年々減ってきているのが一番右です。この辺りをどう見るかというところが時系列の変化でうかがえるところです。

第3号被保険者の就業状況

各委員の発言

第3号被保険者、第2号被保険者の適用拡大についての意見を抜粋します。

小野委員

資料1の32ページですが、まず、1号被保険者の中に被用者が多いという状況は、被用者には被用者にふさわしい制度を適用するという原則からして、相当に乖離した状態になっているのではないかと思っております。そういう意味で、被用者保険の適用拡大の徹底が喫緊の課題だと認識しております。

日本は、国民皆年金といいますが、殊被用者に関する限り、被用者保険の適用の状況は、所得比例型の制度を持つ諸外国の例から見ても、必ずしも胸を張っていられるような状況ではないのではないかと思っております。

小林委員

3点目は、資料2に記載されている被用者保険の適用拡大についてです。

多様な働き方や女性の社会進出を踏まえ、将来の安心の確保の観点からも、被用者保険の適用拡大という方向性については理解できるものの、企業経営に与える影響にも配意することが必要と考えております。

具体的には、適用拡大により、事業主の社会保険料負担が新たに発生すること、及び被用者保険への加入を求められた従業員が、被用者保険へ入らずに、第3号被保険者資格を維持するため、労働時間を減らし、結果として、人手不足を加速する懸念があることを忘れてはならないと思います。

従業員規模要件を101名以上へ拡大した昨年10月を境に、従業員の働き方がどう変化したのか、調査を行う予定と伺っております。その結果に加えて、可能であれば、事業主や被雇用者の社会保険料負担や年金の受給見込額がどう変わったのかについても、データを整備していただき、それを基に丁寧な議論が行えればと思っております。

事務局におかれましては、御検討いただきますよう、どうぞよろしくお願いします。

是枝委員

4点目に、いわゆる年収の壁問題についてです。

資料2「全世代型社会保障構築会議報告書」にありますとおり、働き方に中立的な制度とするために、まずは被用者保険の適用拡大を進めることが重要だと思っております。

一定の収入を超えると、働き損になるとして、就労調整の要因になっているとされる、いわゆる年収の壁の問題につきましては、必ずしも年金制度の問題ではなく、制度の誤解も多分に含まれております。

被用者保険に加入するか否かは、雇われた時点の労働時間や月収によってあらかじめ決まり、年末や年度末に調整できるものではありません。被用者保険に加入して社会保険料を負担する分は、決して働き損ではなく、それに見合う給付を受けられるものであることを丁寧に国民に説明していく必要があります。

一方で、被用者保険に加入せずに、年収が130万円を超えて、3号から1号に変わるケースについては、保険料が増えても給付が増えない、言わば本当の働き損に当たるケースになります。この点について、適用拡大によってそのような方を少なくすることはできますが、今後もずっと被用者の配偶者という身分をもって、収入が一定以下であれば、保険料を免除する仕組みを続けていくべきかは議論の余地があります。

昨年12月に開催された男女共同参画会議の計画実行・監視専門調査会では、お茶の水女子大学の永瀬教授が、第3号被保険者のような保険料免除制度につき、被用者の配偶者を対象にする制度から、育児のためなどに低収入や無収入となっている者に対象を変えてはどうかと提案されており、検討に値するものだと思っております。育児や介護などの事情がなく、労働時間の制約を受けにくい方については、3号被保険者をなくすことで、年収の壁に直面せずに、自らの希望に応じて働く時間を伸ばし、収入を増やしていくことができるようになります。

若い世代では、結婚を機に女性が退職することはかなり珍しくなってきつつあり、寿退社という言葉は死語になりつつあります。ある世代で区切って、それ以後の世代については、第3号被保険者について、育児や介護などの事情のある者に限るという改正を行う余地はあると思っております。

一方で、シングルマザーなど、ケアを担い、労働時間の制約を現に受けている方につきましては、配偶者が厚生年金に加入しているか否かを問わず、保険料の支払いを免除する形で、一定の再分配の対象に加えることが適当ではないかと思っております。

現在の制度では、世帯の中に厚生年金加入者がいる前提であれば、3号制度があっても、1人当たりの賃金が同じなら、どんな世帯でも保険料も、年金額も、所得代替率も同じということで、1人当たり賃金の水準に応じた所得再分配が行われております。

ただし、世帯の中に厚生年金加入者がいればという前提が満たされないために、分配の輪の中に入っていない方がいます。

今後、マクロ経済スライドの調整期間を一致する観点から、厚生年金と国民年金の間で財政の調整を行うことを検討するかと思います。その際には、改めて厚生年金と国民年金に共通で守るべき価値観や理念は一体何なのかということを再考する必要があるかと思っております。

なるべく働き方に中立に、女性の自立の妨げにならない制度とするとともに、年金制度として、配偶者という身分を守るべきなのか、それとも、ケアを担う人を支えていくべきなのか、いま一度大きな枠組みで議論させていただきたいと思っております。

佐保委員

基礎年金の創設や第3号被保険者制度の導入から35年以上経過しておりますが、今後、年金部会において、現行制度の枠組みにとらわれることなく、公的年金制度の在り方について、様々な視点から検討すべきと考えます。その際は、背景や根拠となるデータを基に課題と論点を整理した上で、丁寧に議論を進めていただきたいと思います。

なお、連合としては、将来的に目指すべき公的年金制度として、現行の1号、2号、3号の区分をなくし、全ての者が加入する所得比例年金制度の創設を掲げております。

この実現のためには、自営業者等の所得捕捉が必要不可欠となりますが、これは、複数事業所で勤務する労働者の所得捕捉にも関連するものであります。大きな課題であると認識しておりますが、マイナンバーの活用なども含め、どうすれば全ての者の所得捕捉の仕組みを構築できるのか、構築するに当たり、ハードルとなるものは何かなどについて、今後の年金部会における議論テーマの一つとしていただきたいと思います。

最後に、いわゆる収入の壁ですが、岸田首相の会見後の様々な報道によれば、時限措置として、パート労働者等の保険料負担を実質的に国が一部肩代わりする具体策が報じられております。これは、制度を複雑化させるとともに、いわゆる収入の壁の根本的な解決につながるとは言い難いものであります。

また、「要件を満たさない中小企業等で働く人が年収130万円を超えた場合に、自ら国民年金、国民健康保険に加入する人は対象とならない」との報道がありますが、これは被用者であるにもかかわらず、社会保険が適用されない者にとって、さらなる不公平が生じかねません。

さらに、短時間労働者の就業調整回避への効果は不透明であるとともに、労働時間を短くしても、同水準の手取り収入を確保できるため、新たな就業調整が生じ得る可能性があり、合理性に疑問を抱かざるを得ません。

以上から、優先すべきは、全ての労働者への社会保険適用の実現であると考えます。

たかまつ委員

3点目は、多様な働き方や生き方に対して、年金制度が充実しているかということについて議論したいと思っています。

若者は、副業など多様な働き方をしていますが、それに対して対応できずにいることが大きな問題だと思っております。

私自身も、小さな会社を経営しているのですが、副業で働く人とか、そういう人たちに対して、どのようにしていくかというところとか、ほかの会社の人と相談したりもするのですが、社保が難し過ぎて、業務委託という形になってしまったりすると。

そうすると、なかなかそういう方々が守られなかったりするので、非正規の人が損をしないように見直したり、制度を簡素化していくことが必要だと思いますし、先ほど議論にもありましたが、LGBTQ+の方とか、そういう方のいろいろな生き方に対して支援していくこと。年金においては、制度設計を見ても、あまりにも古い家族観に縛られ過ぎているのではないかと思います。

永井委員

1つ目は、社会保険の適用拡大ですが、前回も申し上げましたとおり、雇用形態、勤務先の企業規模や業種などによって適用有無が変わることは不合理だと思っております。まずは、令和2年改正法の附帯決議を踏まえ、企業規模要件の速やかな撤廃、個人事業者に係る適用業種の見直しについて、この部会において速やかに方向性を共有し、その実現のための議論を進めるべきと考えております。

その上で、第1号被保険者の保険料とのバランスを踏まえた収入要件の引下げ、雇用保険の加入要件なども踏まえた労働時間要件の引下げ、フリーランス等、曖昧な雇用で働く者への適用なども含め、全ての労働者への社会保険の完全適用に向けた前向きな議論を行うべきと考えております。

2つ目は、適用拡大にも係りますが、制度の正しい理解の促進が急務だと申したいと思っております。

岸田首相の会見も含め、いわゆる収入の壁に関する報道が目立つわけですが、社会保険の完全適用が実現すれば、壁は解消すると理解しております。

私が所属する産業別労働組合のUAゼンセンは、流通・サービス業で働く組合員が多い組織でございますが、パートタイマーを多数雇用する現場では、確かに収入の壁による年末の労働時間調整が起こっており、それにより現場の人員不足も起こっております。

しかしながら、所得税がかかる103万と、社会保険適用の賃金要件である月額8.8万円の12か月分の106万と言われる参考値が一緒くたにされ、現場で調整の原因になっているのではないかと思われます。これは、以前の適用拡大の際にも、現場で税と社会保険の壁による多少の混乱があったとも聞いております。

また、パートタイマーの組合員への意識調査では、年収調整をしている方の中で賃金改善や一時金の支給を望むという割合が大きくなっていることも考えると、いわゆる収入の壁があるから働く時間を調整していると言えると思っております。

社会保険の適用によって、将来の年金などの給付が充実することよりも、手取りが減る、つまり可処分所得の減少ばかりに焦点が当たっていることには違和感を覚えますが、いずれにせよ、制度の正しい理解は極めて重要と考えます。

現在も、厚生労働省に特設サイトなどを開設され、省としても様々努力されていることは承知しておりますが、現場の労使双方がしっかりと制度を理解するための取組の強化をお願いしたいと思っております。

平田委員

私は、もともと人事マネジメント情報誌の記者として、働く人と企業側の両方の生の声を聞き続けてきたという背景を持っています。

その上で、今、企業の人事コンサルタントとして企業支援を行っていますが、その支援の過程で、労使両方がよくならないと、会社はよくならないねということを、ものすごく強く感じています。

そんな背景から、この場では1点のみ、少し各論に入るかもしれませんが、被用者保険の適用拡大のことについてお話しします。その上で、年金部会がどうありたいかということを最後にお話しして、閉じたいと思います。

まず、被用者保険の適用拡大ですが、企業規模要件は撤廃でいいのではないかと思っています。個人事業所における非適用業種についても同様です。一方、所定労働時間20時間未満への適用拡大については、より深い議論の必要があると思っています。

これは、企業にとって、被用者性、労働者性、つまり、うちが保険料を負担して働いてもらう対象だと思うかどうか。ということは、論点ではないかもしれませんが、被用者とはどういうことで、使用者責任とは何なのか? という深い議論が、必要なのではないかと個人的には思っています。

適用拡大について、事業主側が負担を重く感じるのは、私自身、零細企業の代表を務めておりますので、非常によく分かります。

一方で、苦しさは、企業規模だけによるものではなくて、それぞれのビジネスモデルだったり、今、需要の多い分野の仕事かどうか? などにもよります。したがって、企業規模が判断基準として適切なのか、ということはあると思います。もし企業側への配慮が必要であるならば、他の仕組みを入れたほうがよいと思っています。

一方、働く個人においても同じことが言えるかと思います。

自分の保険料支払いが苦しいと思う人は、既に今、適用拡大されている、100人超の企業に勤めている人も同様であると思います。もし支援が必要であるならば、別の仕組みを入れたほうがよいということです。

実際、20時間以上30時間未満働きながら、3号被保険者でいたいという理由で就職先を選ぼうとしても、事実上、難しい現状があると思います。求人広告にはその記載がありませんし、企業のホームページにもそれがないので、選ぶことができないこともあると思います。

同時に、職選びにおいて、3号被保険者であろうとするという判断基準で職を選ぶことは、長い目で見れば、当人のためにならないのではないか、社会のためにもならないのではないか、ということを、考えていくべきではないかと思います。

当人のためにならないというのは、自分の人生は自分が選択していく自分の命であるにもかかわらず、社会保障の仕組みがこうだから、あるいは夫の会社の配偶者手当がもらえるからという理由で職業選択をしていくことが、本人にとっていいことか? ということです。最終的に、その人がそれを選んでいるかもしれませんが、社会の仕組みとして、損得が明確に生じるものがあれば、当然選ぶわけです。

同時に、労働力不足について先ほど小林委員からもお話がありましたが、実際に当社の顧問先でも、この制度がゆえに20時間以上は働かない、30時間以上は働かないと明確に決めている人がいる。

ところが実際には、31時間とか32時間働ける人も多い。だけれども、そこで切ってしまっている。このことも、本人としても、企業としてもよいのか? ということがあるかと思います。

今、働く女性は、ものすごく多様化しています。いろいろな選択肢があるからこそ、非常に難しい時代でもあります。が、だからこそ配偶者手当があるからとか、配偶者控除があるからとか、3号だからということで選ぶのではなくて、自分で自分の人生を生きることにちゃんと向き合っていくことが、すごく大事なのではないかと思っています。今の仕組みは、そこから女性本人をある意味逃げさせてしまっている面もあるのではないかということです。

そういう意味合いにおいて、この仕組みができた当時と今では、社会が大きく変わっている。仕組みの効果はあったと思いますが、それが薄くなって、逆効果のほうが大きくなっているのではないか。そうだとしたら、今後はどのように社会を導いていくのか? という議論、つまり、社会のありたい姿を考えることも、大切になってくるのではないかと思っています。

働き方改革も、ありたい姿を誰かが示して、これだけ進んできた側面があると思います。年金もそうあっていいのではないかと思っております。

出口委員

2点目は、いろいろな委員の先生方からお話がありましたが、資料の32ページとか33ページに、第1号被保険者、第3号被保険者ともに被用者の割合が増えている中で給付と負担の違いといった問題がございます。

公的年金とか社会保障制度は、経済のいわゆる成長と分配の好循環の基盤でございますが、公平・公正な仕組みの下で、どのような働き方をしてもセーフティーネットが確保されて、誰もが安心して希望どおりに働ける、いわゆる働き方に中立ということがこれから極めて重要かと私は考えております。

目指すべき方向性は、被用者保険のさらなる適用拡大だと思っております。企業規模、あるいは業種、賃金といった適用要件については、より多くの方が被用者保険に加入できる方向性に沿って、さらに見直しを進めていく必要があるのではないかと思います。

こうした見直しの中で、先ほど先生方からもお話がありましたが、資料2の5ページの最後に広報の充実とありました。

被用者保険に加入することで、今より厚い給付が受けられ、働く人々の安心感が一層高まるという前向きなメッセージをどうやって出していくのかというところは、非常に重要かと感じました。

権丈委員

資料2の4ページの下から2段落目に、20時間未満の短時間労働者についても、被用者保険の適用除外となっている規定を見直し、適用拡大を図ることが書かれています。

その下の行に「国民年金制度との整合性等を踏まえつつ」とあるわけですが、この整合性を踏まえると、20時間未満に関しては、厚生年金の事業主負担のみを課す形になるといいますか、そうならざるを得ません。

実は、岸田総理が政調会長だったときにまとめた報告書にある勤労者皆保険、当時、彼らは勤労者皆社会保険と呼んでいたわけですが、勤労者皆保険は、20時間未満に関しては、事業主負担だけを課す制度の話でした。

今、厚生年金の事業主負担のみで、給付は厚生年金の半分になる制度を厚生年金ハーフと呼んでおきたいと思います。

厚生年金ハーフを20~30時間のパート労働者に当てはめて、彼らに本人負担を含めた厚生年金フルと、厚生年金ハーフを選択するという形にすれば、今騒動が起こっている、壁だと信じ切って、就業調整をしている人の問題はほぼ解決します。

ちなみに、構築会議の報告書では、5ページの4つ目の黒星にあるように、就業調整に関しては、一層の適用拡大と被用者保険への加入の意義の広報の充実しか書いていません。

しかし、みんなが壁と誤解して意識して、それに基づいて行動しているというのであれば、広報の充実と並行しながら、先ほど言った20~30時間のところに厚生年金ハーフを準備して、彼らに、社会保険料の本人負担分を払わないで、今の手取りを高める選択をしてもよいけれども、それは老後の貧困リスクを高める選択であることを学んでもらうことも必要になっているかと思っております。

今から12年ほど前の2011年2~3月にかけて、運用3号という問題で世の中は大変盛り上がっていました。それがあまりにも不公平な制度であったということで、その制度の制定に関係した課長の更迭というトカゲの尻尾切りのような事件が起こりました。

この国では、3号を優遇すると、大炎上します。そのことを分かっていない新しい人たちが永田町にも増えてきたのだろうと思って、今の様子を見ています。

いわゆる壁と言われているものをなくすために、年金財政から補助金を出すことなど、年金局の人たちが進んで考えるわけがないのですが、報道を見れば、厚労省が前向きに動いているという話になっている。

今日もそうした案が出てくるのではないかと、フロアの人たちは、大いに期待されているのではないかと思いますが、今言われている補助金の話は、3号は、基礎年金だけでなく、法律上は2号も3号も国民年金の保険料は免除されているわけですが、加えて厚生年金保険料の本人負担分を補助金という他の人のお金で埋めてもらって、厚生年金をフルで受け取ることができるようにするという3号への特別な優遇措置です。

そういうことにみんなが気づいていったら、運用3号のときのように大炎上するだろうと思いますし、今度は課長ではなく、局長あたりが更迭されるのではないかと私一人で心配しております。年金局の方々は、くれぐれも気をつけながら対応していかないことには、この話はかなりやばいぞというのがあります。

駒村委員

その上で、まず、給付の十分性に関わることなのですが、今日の資料にはございませんでしたが、第1号の中に占める免除、猶予の割合がかなり急激に上昇してきている、4割近くが該当しているようになってきていると思います。これは当然、将来、低年金受給者になる可能性が高いと思います。

団塊ジュニア世代は、2040年ぐらいから退職に入っていきますが、非正規の期間が非常に長いのではないかと。これも低年金者になる可能性が高い。

そういうのを考えますと、まず、先ほど島村さんがお話しされましたが、年金生活者支援給付金をどうするのかということは考えなければいけないし、それ以前に、厚生年金の適用拡大はなるべく急がなければいけない。

ただ、その際に、2つめですが、中小・零細企業がその負担に耐えられるように、この人件費相当分をちゃんと価格転嫁できるように、中小企業政策、下請政策を含めて、経済産業政策と連携を進めていただきたい。これがあります。

武田委員

3点目は、就業調整に関してです。

今申し上げたことと関係しますが、男女の様々な格差、あるいは働き方の差に影響を及ぼしている制度があるとするならば、時代の変化に合わせて見直す必要があると思います。

平田委員がおっしゃったとおり、配偶者控除や第3号被保険者制度があるからという認識があるのも事実です。その点は制度への理解不足も含めて、是正していく必要があると思います。

しかし、根本的に解決していこうと考えますと、広報だけではなく、まずは適用拡大を着実に進めていく必要があると思いますし、その先は、現時点で共働き世帯の比率がマジョリティーになっていること、働き方も多様になってきていることを踏まえて、制度の見直しを冷静に議論していく責任があるのではないかと考えます。

嵩委員

1点目は、今回御説明いただいた資料でも示されていましたが、女性の就労が変化し、非正規労働者が多いものの、M字カーブの底が上がってきているという変化に照らして、第3号被保険者制度の意義と課題を再検討し、社会の変化に合った見直しの方向性を示すべきではないかという点になります。

第3号被保険者制度については、主に女性の年金権の保障のために導入され、その意義はとても大きいのですが、他方で、本当に不公平かどうかはさておき、不公平感の問題などが長らく指摘されてきておりました。

第3号被保険者制度見直しの議論は、既に何度も行われてきましたが、一定の統一的な方向性を示すことはなかなか難しくて、現在は、短時間労働者の適用拡大を法で推進することで間接的に対応している状況かと思います。

今回の資料でもありますように、第3号被保険者の就労が進展しておりますので、短時間労働者の適用拡大によって、一定程度の第3号の方は、今後、第2号に移行されるのではないかと思われますが、それでも第3号被保険者として残る方々は一定数おられると思われます。

その中で、先ほど来御指摘があった年収の壁という現行の問題に取り組むことが重要でありますが、それとともに、第3号被保険者に残る方々がどういう事情で所得が低いのかということについて、これは是枝委員が先ほど御指摘されていましたが、例えば育児や介護で十分に就労できないといった事情を持っているのかなどを把握した上で、例えばそういった事情に即した制度に第3号被保険者制度を組み替えていくべきかなど、根本にまで踏み込んだ議論を行って、一定の見直しの方向性をこの部会で示していければと思っております。

まとめ

多くの委員が第3号被保険者の問題点を取り上げています。

第3号被保険者制度が始まった1986年と比べ社会情勢が大きく変化おり、第3号被保険者制度がむしろ女性の働き方を縛っているのではないかというような意見もあります。

それに関連して、収入の壁問題についても多くの意見が出ています。

今後も、社会保障審議会年金部会をウオッチしていきたいと思います。

資料

社会保障審議会(年金部会)スケジュール

第2回議事録(令和5年3月28日)

資料:年金制度を取り巻く社会経済状況の変化(PDF)

社会保障審議会年金部会 委員名簿(PDF)