2020年9月7日更新
数カ所数値の間違いを発見し訂正しました。また、他の部分も加筆、修正しました。
毎年1月に新年度の老齢年金の額と国民年金保険料が厚労省より公表されます。
1月24日、令和2年度の老齢基礎年金と老齢厚生年金の支給額が公表されました。
年金を受給し始める際の年金額(新規裁定年金)、受給中の年金額(既裁定年金)ともに、マクロ経済スライド調整率がマイナス0.1%適用され、改定率がプラス0.2%となりました。
老齢年金の年金額推移と改定率決定のルールについて記事にしました。
令和2年(2020年)度 新規裁定者の年金額
「新規裁定年金」とは年金を受給し始める際の年金です。
- 老齢基礎年金(月額):65,141円
(国民年金加入40年の満額支給額) - 老齢厚生年金(月額):220,724円
(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額・モデル年金)
年金額と改定率の推移(新規裁定年金)
年度 | 改定率 | 基礎年金 | 厚生年金 |
---|---|---|---|
H28(2016) | 0.0% | 65,008 | 221,504 |
H29(2017) | -0.1% | 64,941 | 221,277 |
H30(2018) | 0.0% | 64,941 | 221,277 |
R01(2019) | +0.1% | 65,008 | 221,504 |
R02(2020) | +0.2% | 65,141 | 220,724 |
基礎年金
老齢基礎年金の年金額は、20歳から59歳までの40年間加入した場合の満額支給額です。
厚生年金
老齢厚生年金の年金額は、夫が平均標準報酬(賞与含む月額換算)43.9万円で40年間就業し、妻がその期間すべて専業主婦であった世帯が年金を受け取り始める場合の老齢基礎年金を含めた年金額です。
改定率より年金額を算出する方法については以下の記事にまとめています。

改定率改定の基本ルール
- 新規裁定年金
賃金変動率(名目手取り賃金変動率)をベースに改定 - 既裁定年金
物価変動率(全国消費者物価指数変動率)をベースに改定
「新規裁定年金」とは年金を受給し始める際の年金で、賃金変動率をベースに改定されます。
「既裁定年金」とは継続して受給中の年金で、物価変動率をベースに改定に改定されます。
ところが、このふたつの変動率のプラス・マイナス、大・小により、例外規定が設けられています。
新規裁定年金は65歳から支給されますが、この新規裁定年金は67歳になる年度の年度末まで続きます。
既裁定年金は68歳になる年度から支給開始となります。
これは、新規裁定年金のベースとなる賃金変動率が、2~4年前の変動率を用いていることによります。
物価変動率と賃金変動率の推移
以下の3つの指標より名目手取り賃金変動率を算出しそれを賃金変動率とします。
- 物価:物価変動率
前年の全国消費者物価指数変動率 - 賃金:実質賃金変動率
2~4年度前3年間の実質賃金変動率の平均 - 所得:可処分所得割合変化率
3年度前の値
年度 | 物価 | 賃金 | 所得 |
---|---|---|---|
H28(2016) | +0.8% | -0.8% | -0.2% |
H29(2017) | -0.1% | -0.8% | -0.2% |
H30(2018) | +0.5% | -0.7% | -0.2% |
R01(2019) | +1.0% | -0.2% | -0.2% |
R02(2020) | +0.5% | -0.1% | -0.1% |
- 名目手取り賃金変動率(名目賃金)
=物価×賃金×所得
例えば、H28年度の場合の名目手取り賃金変動率は、『1.008×0.992×0.998=0.998→-0.2%』と算出されます。また、近似的に『(-0.8%)+(+0.8%)+(-0.2%)=-0.2%』としても算出できます。
年度 | 物価 | 賃金 | 所得 | 名目賃金 |
---|---|---|---|---|
H28(2016) | 1.008 | 0.992 | 0.998 | -0.2% |
H29(2017) | 0.999 | 0.992 | 0.998 | -1.1% |
H30(2018) | 1.005 | 0.993 | 0.998 | -0.4% |
R01(2019) | 1.010 | 0.998 | 0.998 | +0.6% |
R02(2020) | 1.005 | 0.999 | 0.999 | +0.3% |
複雑な改定率決定のルール
新規裁定は賃金ベース、既裁定は物価ベースとなっていますが、実際には、給付と負担の長期的な均衡を保つために、物価変動と賃金変動の様々な場合を想定し、複雑な改定ルールが定められています。
下図①~⑥の場合に分けて改定ルールが決まっています。

(出展)日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/kyotsu/gakukaitei/201805-8.files/C.pdf
図の説明
- ①②③「物価変動<賃金変動」の場合
基本通り、新規裁定年金は賃金変動、既裁定年金は物価変動としています。
- ④⑤⑥「物価変動>賃金変動」の場合
新規裁定年金は賃金変動ですが、年金の支え手である現役世代の負担能力を考慮して、既裁定年金も賃金変動とします。ただし、令和2年度までは例外的に、新規裁定者・既裁定者の両方に対する配慮として、④の場合は物価変動、⑤の場合は変動なしとしています。ただし、令和3年度からはこの例外もはずされ、④⑤の場合も賃金変動に統一されます。
ベースとなる改定率の推移
上図①~⑥のどの場合に当てはまるかによリ、ベースとなる改定率が決まります。ただし、この改定率はマクロ経済スライド調整率適用前の数値になります。
年度 | 物価 | 賃金 | 適用 | 改定率 |
---|---|---|---|---|
H28(2016) | +0.8% | -0.2% | ⑤ゼロ | 0.0% |
H29(2017) | -0.1% | -1.1% | ④物価 | -0.1% |
H30(2018) | +0.5% | -0.4% | ⑤ゼロ | 0.0% |
R01(2019) | +1.0% | +0.6% | ⑥賃金 | +0.6% |
R02(2020) | +0.5% | +0.3% | ⑥賃金 | +0.3% |
令和2年度の改定では、物価変動と賃金変動がともにプラスで「物価変動>賃金変動」となり、⑥の場合となりました。その結果、新規裁定、既裁定ともに賃金変動ベースで改定することになりました。
平成27年度~令和2年度は、新規裁定・既裁定とも同一ベースの適用が続いています。
さらにマクロ経済スライド調整が加わります
上記の改定率に加えて、「マクロ経済スライド調整」が行われることになります。
公的年金被保険者の減少と平均余命の伸びに基づいて、スライド調整率が設定され、その分を賃金と物価の変動がプラスとなる場合に改定率から控除するものです。
調整率適用のルール
- マクロ経済スライド調整率
=2~4年度前の3年分被保険者数変動率
×平均余命の伸び率(定率▲0.3%) - 賃金変動率・物価変動率がともにプラスの場合に適用
- 改定率がマイナスにならない範囲で適用
マクロ経済スライド未調整分の繰り越し
マクロ経済スライド調整は、年金額の改定率がマイナスにならない範囲で適用する決まりになっており、調整率を反映できない年度があります。
平成30年度より、この反映しきれなかった調整率を、将来世代の給付水準の確保や、世代間での公平性を担保する観点から、翌年度以降に繰り越す(キャリーオーバーする)ことになりました。
賃金・物価変動率がともにプラスの時に、改定率がマイナスにならない範囲で繰り越した未調整分を適用します。
平成30年度の未調整分が繰り越しの対象となり、平成31年度に適用することになりました。

(出展)日本年金機構https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/kyotsu/makurokeizaisuraido/20180517.files/E.pdf
マクロ経済スライドの詳細は以下の記事を参照してください。

マクロ経済スライド適用後の年金額改定率
ベースとなる改定率にマクロ経済スライド調整が考慮され、実際の年金額改定率が決まります。
マクロ経済スライド調整率はベース改定率がプラスの場合に適用されますが、H30年度から、適用できなかった調整率は次年度以降に繰り越さえれ、ベース改定率がプラスになった年度に適用されることになりました。
年度 | ベース | スラ イド | 実施 | 実施 スラ イド | 実施 改定率 |
---|---|---|---|---|---|
H28(2016) | 0.0% | -0.7% | しない | 0.0% | 0.0% |
H29(2017) | -0.1% | -0.5% | しない | 0.0% | -0.1% |
H30(2018) | 0.0% | -0.3% | 繰越 | 0.0% | 0.0% |
R01(2019) | +0.6% | -0.2% | する | -0.5% | +0.1% |
R02(2020) | +0.3% | -0.1% | する | -0.1% | +0.2% |
- H30(2018)年度
ベース改定率が0.0%なので、スライド調整率-0.3%は次年度以降に繰り越されました。 - R01(2019)年度
ベース改定率が+0.6%になり、H30年度繰越分-0.3%とR01年度分-0.2%を適用しても改定率がマイナスにならないので、繰越分も含めて適用されました。実際の計算は、スライド調整率が、0.998×0.997、改定率が1.006×0.998×0.997=1.001となりますが、近似的に(+0.6%)+(-0.3%)+(-0.2%)=+0.1%として算出されます。 - R02(2020)年度
ベース改定率がプラスになったので、R02年度のスライド調整率-0.1%がそのまま適用されました。改定率の実際の計算は、1.003×0.999=1.002となりますが、近似的に(+0.3%)+(-0.1%)=+0.2%として算出されます。
年金額の改定ルール見直し
平成28年度の法改正により、令和3年度(2021年度)より改定ルールの見直しが行われます。
令和2年度までは、物価変動>賃金変動の場合、年金制度の持続可能性・現役世代の負担を考慮して、本来「賃金スライド」とするべきところを、④の場合を「物価スライド」、⑤の場合を「0スライド」としています。それを令和3年度より本来の「賃金スライド」に見直す予定です。

(出展)日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/kyotsu/gakukaitei/201805-8.files/D.pdf
まとめ
年金額の改定ルールはとても複雑です。
- 基本として、新規裁定年金は賃金変動ベース、既裁定年金は物価変動ベース
- 賃金変動と物価変動の組み合わせにより6通りの改定ルールがある
- マクロ経済スライド調整率で年金額の上昇を抑えている
- 今後、支え手である現役世代の負担能力を考慮した給付とするためのルール変更が控えている