マクロ経済スライド調整とは、現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて年金額を抑えるしくみです。
2022年度のマクロ経済スライド調整率はマイナス0.2%です。2021年度に続き2年連続の繰り越しとなりました。昨年度とあわせてマイナス0.3%が次年度以降に繰り越されます。
マクロ経済スライド調整の仕組みについてまとめました。
マクロ経済スライド調整率の算出方法
マクロ経済スライド調整率は以下の2つの数値から算出します
- 現役の被保険者の変動率
…公的年金被保険者数の変動率
(2~4年度前の平均) - 平均余命の伸び率による調整
…マイナス0.3%(一定値)
マクロ経済スライド調整率
=被保険者数変動率✕平均余命調整
2022年度の算出式
- 公的年金被保険者数の変動率=+0.1%
- 平均余命の伸び率による調整=-0.3%
- マクロ経済スライド調整率
=( 1+0.001)×(1-0.003)
=1.001×0.997
=0.998
⇒-0.2%
この数字は、近似的に (+0.1%)+(-0.3%)=-0.2% として求めることができます。
マクロ経済スライド調整率の推移
▼スライド調整率の推移
年度 | 保険者数 | 平均余命 | 調整率 |
---|---|---|---|
2016 | -0.4% | -0.3% | -0.7% |
2017 | -0.2% | -0.3% | -0.5% |
2018 | 0.0% | -0.3% | -0.3% |
2019 | +0.1% | -0.3% | -0.2% |
2020 | +0.2% | -0.3% | -0.1% |
2021 | +0.2% | -0.3% | -0.1% |
2022 | +0.1% | -0.3% | -0.2% |
マクロ経済スライド調整は必ず適用されるというわけではありません。調整前のベースとなる改定率がゼロまたはマイナスの場合、実施せず次年度以降に繰り越すことになります。
ベースとなる改定率
65歳から67歳になる年度の年度末まで支給される年金を新規裁定年金、68歳になる年度から支給される年金を既裁定年金といいます。新規裁定年金が67歳の年度末まで支給されるのは、年金額の改定において3年度前の指標が用いられるためです 。
マクロ経済スライド調整前のベースとなる改定率は「物価変動率」と「賃金変動率」をもとにして決まります。本サイトでは調整前の改定率を「ベース改定率」としています。
A.賃金変動率が物価変動率を上回る場合
新規裁定年金 :賃金変動率ベース
既裁定年金 :物価変動率ベース
B.賃金変動率が物価変動率を下回る場合
両裁定年金とも:賃金変動率ベース
日本の年金制度は賦課方式で、現役世代が納めた年金保険料が受給世代に年金として支給されています。「B.賃金変動率が物価変動率を下回る場合」は年金財政のバランスを考慮して、既裁定年金も賃金変動率をベースに改定することになります。
マクロ経済スライド調整前のベース改定率は以下の通り推移しています。
▼ベース改定率の推移
年度 | 物価 変動率 | 賃金 変動率 | 適用 変動率 | ベース 改定率 |
---|---|---|---|---|
2016 | +0.8% | -0.2% | ※ゼロ | 0.0% |
2017 | -0.1% | -1.1% | ※物価 | -0.1% |
2018 | +0.5% | -0.4% | ※ゼロ | 0.0% |
2019 | +1.0% | +0.6% | 賃金 | +0.6% |
2020 | +0.5% | +0.3% | 賃金 | +0.3% |
2021 | 0.0% | -0.1% | 賃金 | -0.1% |
2022 | -0.2% | -0.4% | 賃金 | -0.4% |
一部に例外規定が適用されています
2016年以降、すべての年度で「B.賃金変動率が物価変動率を下回る場合」となり、本来なら新規裁定年金・既裁定年金とも賃金変動率がベース改定率になるところですが、2020年度までは例外規定があり、※印に例外規定が適用されています。
「B.賃金変動率が物価変動率を下回る場合」で賃金変動率がマイナスになったとき、そのまま賃金変動率を適用すると年金額のマイナスが大きくなるので、2016・2018年度は変動なし、2017年度は物価変動率が適用されています。
2021年度からは例外規定が撤廃されて「B.賃金変動率が物価変動率を下回る場合」に賃金変動ベースが適用されています。

ベース改定率+マクロ経済スライド調整率
マクロ経済スライド調整は必ず適用されるというわけではありません。
- ベース改定率がマイナスまたはゼロの場合は適用されない
- ベース改定率がプラスの場合も改定率がゼロを下回る適用はされない
- 2018年度以降、適用されなかった調整率は次年度以降に繰り越す
▼スライド調整実施後の改定率
年度 | ベース 改定率 | スライド 調整率 | 実施 | 実施 スライド | 実施後 改定率 |
---|---|---|---|---|---|
2016 | 0.0% | -0.7% | しない | - | 0.0% |
2017 | -0.1% | -0.5% | しない | - | -0.1% |
2018 | 0.0% | -0.3% | 繰越 | - | 0.0% |
2019 | +0.6% | -0.2% | する | -0.3% -0.2% | +0.1% |
2020 | +0.3% | -0.1% | する | -0.1% | +0.2% |
2021 | -0.1% | -0.1% | 繰越 | - | -0.1% |
2022 | -0.4% | -0.2% | 繰越 | - | -0.4% |
2017年度までは繰越制度がなく、2016年度と2017年度は「ベース改定率がマイナスまたはゼロ」ということで、実施が見送られました。
マクロ経済スライド調整は2007年度から実施する計画でしたが、実施条件の規定により実際に実施できたのは2015年度だけという状況でした。
2018年度より実施が見送られた場合の繰越制度が始まり、2018年度の調整率は翌年以降に繰り越され、2019年度のベース改定率がプラスになったので、2018年度と2019年度の2年分の調整が実施されました。
2021・2022年度は2年連続で繰越となりました。繰り越された調整率は合計-0.3%になります。
この調整率については、2023年度以降、ベース改定率がプラスになった場合に、改定率がマイナスにならない範囲で実施されることになります。
2023年度に賃金変動率と物価変動率がプラスになっても、「B.賃金変動率が物価変動率を下回る場合」が予想され、ベース改定率は賃金変動率となり、繰越分も含めてのマクロ経済スライド調整が実施されると予想されます。