マネーポストWEB1月に、『岸田年金改悪』と銘打った記事が3回に渡って掲載されています。
公的年金制度については、将来にわたって安定して持続できるように、5年ごとの財政検証で制度の見直しが行われます。
2022年10月に「第1回 社会保障審議会 年金部会」が開催され、2024年の財政検証に向けた議論がスタートしました。
記事では、その中で検討されている改定案について『岸田年金改悪』として、5項目が列記されています。
記事が列記する5つの改悪
- 国民年金の加入期間を40年から45年に延ばす
- 厚生年金の被保険者期間を「70歳まで」から「75歳まで」に延ばす
- パート労働者らに厚生年金加入を適用拡大する
- 厚生年金のマクロ経済スライド期間を延長する
- 年金支給開始年齢を引き上げる
「最大の問題が 4 のマクロ経済スライドの延長」とあります
マクロ経済スライドとは、現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて年金額を抑えるしくみです。
この減額調整は1階部分の基礎年金と2階部分の厚生年金報酬比例額のそれぞれで年金収支が均衡するまで実施されることになっています。
ところが、基礎年金は厚生年金に比べて減額調整期間が相当長く続き、基礎年金月額が満額で5万円を切ってしまう見通しになっています。
そこで、厚生年金の調整を延長し、一方で基礎年金の調整を繰り上げ、調整の終了時期を一致させ、基礎年金月額を5万円以上に維持させる案が検討されています。
結果的に厚生年金の資金が基礎年金の補充に転用されることになります。
これをマネーポストの記事では『最大の問題』としています。
会社員(国民年金2号被保険者)が納めた保険料の一部が1号被保険者の年金に回されることになるので、この案は相当の議論を呼ぶことになると思われます。
この件については、本サイトでも以下の記事で詳しく取り上げました。
1・2・5は将来的には受け入れざるを得ないのでは…
国民年金・厚生年金の加入期間を延長し、年金支給開始年齢を引き上げることは、今回提案されるかどうかは別として、将来的には受け入れざるを得ないのではないかと思います。
平成16年の年金制度改正で、保険料の固定とマクロ経済スライド調整の導入が決まりました。
1号被保険者が納める国民年金保険料は、基準額が月額17,000円で固定され、物価変動率と賃金変動率で調整されます。
2号被保険者が納める厚生年金保険料は本人負担と会社負担をあわせて、標準報酬月額・標準賞与額の18.3%に固定されています。
日本の公的年金は「賦課方式」で被保険者が納める保険料が年金の原資になっているので、被保険者が減少すれば、当然年金額を減額する必要があります。
その減額を自動的に行うのがマクロ経済スライド調整ということになります。
さらに将来に破綻しないように、原資の中から一部を積立金として運用し、将来の資金不足に備えることになっています。
給付額の減額をできるだけ抑え、将来にわたり収支を安定させるためには、保険料納付期間を延長し、支給開始を遅らせるしかないのではと思います。
それをいつからどのように実施するかということになると思います。
厚生年金の納付期間は各人の退職年齢によりますが、国民年金の延長は加入義務を伴うので議論を呼ぶことになると思います。
支給開始年齢については、現在も年金の繰り下げ受給が奨励されています。
その延長線上で段階的な支給開始年齢の引上げが行われるようになるかもしれません。
3については厚生年金加入のメリットも大きい
パート従業員が厚生年金と健康保険組合に加入する条件は、2022年10月から以下の通りになっています。
- 週の所定労働時間が20時間以上あること
- 雇用期間が2カ月を超えて見込まれること
- 賃金の月額が8.8万円以上であること
- 学生でないこと
- 従業員100人超の企業等
100人以下でも労使合意に基づき適用可
2024年10月に従業員50人超改定予定
納付する保険料と給付される年金
厚生年金に加入すると将来厚生年金報酬比例額が給付されます。
月額88,000以上93,000円未満の場合、
- 標準報酬月額:88,000円
- 厚生年金保険料
全 額:16,104円
本人負担: 8,052円
この場合1ヵ月の保険料負担で年金額(年額)がどれだけになるか、平成5年度の式で求めてみます。
- 厚生年金報酬比例額(年額)
=標準報酬月額×再評価率×5.481
/1000×月数
=88,000×0.956×5.481/1000×1
=461.1円
1ヵ月の保険料8,052円の負担で1年あたり461.1円の年金額になります。
- 8,052÷461.1=17.5
厚生年金を17.5年受給すれば保険料のもとが取れます。65歳から受給すると82.5歳でもとが取れることになります。
▼標準報酬月額88,000円の場合
厚生年金 加入年数 | 保険料 /毎月 | 厚生年金 報酬比例額 |
---|---|---|
10 年 | 966,240 円 | 4,611 円 |
20 年 | 1,932,480 円 | 9,222 円 |
30 年 | 2,898,720 円 | 13,833 円 |
自営業者の配偶者、独身者はメリット以外ない!
公的年金の1階部分にあたる「老齢基礎年金」は20歳から59歳までの480ヵ月保険料を納付することで満額になります。
会社員の配偶者は国民年金第3号被保険者として、国民年金保険料(16,520円/月、平成5年度)を払うことなく、保険料納付月数がカウントされます。
いっぽう、自営業者の配偶者と独身者は、厚生年金に加入していない場合は自分で毎月の国民年金保険料を納付する必要があります。
厚生年金の適用拡大で厚生年金に加入できれば、毎月の国民年金保険料の負担なく、保険料納付月数がカウントされます。
年金減額への対策は?
記事では年金減額への対策がいくつか提言されています。
- 個人年金保険
- iDeCoの活用
- 付加年金(1号被保険者)
- リスキリング
私自身は2024年から始まる新NISAを利用した積立投資も一手であると思っています。
岸田年金改悪?
財政検証はいわば数学の問題です。
数学の結果として年金制度の改正点が提示されます。
それを採用するかどうかはその時の政権の問題になるでしょう。
時の政権は将来の年金制度に対する大きな責任を負うことになります。
「岸田年金改悪」も必要なら受け入れるべきではないかと思います。