娘が大学生のとき、国民年金の「学生納付特例制度」を利用していました。
この猶予された保険料の追納期限が10年までということになっています。娘の追納期限が近づいているということで、この追納のメリット・デメリットについて調べてみました。
学生納付特例制度とは
国民年金は、20歳以上で強制加入となります。学生納付特例を申請すると、学生期間中、国民年金保険料月額16,410円(令和元年度)の支払が猶予されます。
- 毎年申請が必要
- 市(区)役所・大学・郵送等で申請が可能
- 2年1ヵ月前までさかのぼって申請が可能
- 本人の前年所得が118万円以下
- 親元世帯の収入要件はなし
親が払う方法もあり
親が子供の国民年金保険料を払う場合、親名義の預金口座やクレジットカードで支払うことにより、親の方で所得控除を受けることができます。
親が子供の国民年金保険料を1年間払った場合には、16,410×12=196,920円を所得から差し引きできます。仮に所得税率10%、住民税率10%とすると、196,920×20%=39,384円となり、約4万円の節税になります。
子供の分の社会保険料控除証明書を年末調整や確定申告の際に提出し所得控除を受けることになります。
猶予期間も受給資格期間に算入される
65歳からの老齢基礎年金を受給するためには、国民年金1号2号3号加入期間の合計が10年(120月)以上必要です。
学生納付特例の手続きをすると、猶予期間も受給資格期間に算入されます。手続きをせず保険料を納付しない場合「未納」となり受給資格期間に算入されません。
ただし、猶予期間は保険料納付月数には算入されない
65歳から支給される老齢基礎年金の支給額は以下の計算式になります。
- 老齢基礎年金満額 780,100円(令和元年度)
- 支給額=満額×保険料納付月数/480月
満額支給を受けるためには、「保険料納付月数」が480月必要ですが、学生納付特例により猶予された月数は、この「保険料納付月数」には算入されません。
満額にするためには、就職してから保険料を追納する必要があります。
手続きせず未納の場合、障害基礎年金・遺族基礎年金が支給されません!
国民年金には、遺族基礎年金・障害基礎年金という制度があります。
遺族基礎年金は、本人が死亡した場合に、本人に扶養されている高校生以下の子がいる場合、配偶者または配偶者がいない場合は子に支給される年金です。学生の場合、配偶者や子を扶養しているということはごくまれだと思います。
障害基礎年金は、本人が事故等で障害の状態になった場合、本人に支給されます。学生にとっても万一の場合に備えて、とても重要になると思います。
学生納付特例の手続きをせず未納の場合、遺族基礎年金・障害基礎年金が支給されない場合があります。
障害基礎年金とは
障害基礎年金は、障害の原因となった病気やケガの初診日の前日において、以下の要件のいずれかを満たしている必要があります。
- 初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の3分の2以上の期間について、保険料が納付または免除されていること
- 初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと(令和8年4月1日までの措置)
学生納付特例の手続きをして保険料が猶予されている場合は障害基礎年金が支給されますが、承認を受けず保険料が未納となっている場合は支給されません。
初診日以降に保険料納入や学生納付特例の手続きをしても、障害基礎年金の給付は認められません。
障害基礎年金の支給額 (令和元年度)
- 障害等級1級
- 満額の老齢基礎年金の1.25倍
- 975,125円
- 障害等級2級
- 満額の老齢基礎年金と同額
- 780,100円
- 子の加算額
- 1人目・2人目 各224,500円
- 3人目以降 各74,800円
- 障害等級3級は対象外
学生時代に未納の場合は就職後も注意が必要
就職後に厚生年金に加入しても、上記(1)(2)いずれかの要件を満たしている必要があります。
以下の場合、障害年金がもらえないことになります。
(例)3月まで未納の人が4月に就職し翌年4月に怪我をして障害を負った
- 初診日の前々月は2月
- 厚生年金加入月数が11ヶ月で要件(1)を満たさない
- 前年3月~当年2月までの1年間に前年3月の未納があり要件(2)を満たさない
よって、障害年金を受給できません。初診日以降に、未納の保険料を納めても障害年金は認められません。
障害基礎年金だけではなく障害厚生年金ももらえないことになります。
学生納付特例の申請をしていない場合
就職後1年未満の人で学生納付特例の申請をしていなかった人は、早急に以下のいずれかの手続きをする必要があります。
- 2年1ヵ月前から現在までの学生であった期間について保険料を支払う
- 2年1ヵ月前から現在までの学生であった期間の学生納付特例を申請する
保険料は10年後まで追納できます
学生納付特例制度により猶予された保険料を後から支払うことを「追納」といいます。「猶予」された保険料は10年後まで「追納」できます。
学生納付特例の申請をせず「未納」になっている保険料は、2年たつと後払いできなくなります。
娘の追納金額を計算しました(令和元年度)
娘は平成3年5月生まれです。
- 平成23年度(2回生) 5月~3月 11カ月
- 平成24年度(3回生) 4月~3月 12カ月
- 平成25年度(4回生) 4月~3月 12カ月
合計35カ月分の追納が必要になります。
保険料を猶予された期間の翌年度から起算して、3年度目以降に保険料を追納する場合には、加算額が上乗せされます。
娘の場合、令和元年度に追納すると、532,360円を追納することになります。
損得を計算してみます
この追納で増える老齢基礎年金の額を、令和元年度の老齢基礎年金額で計算します。
- 780,100×35/480=56,882円
- 56,882円÷12=4,740円
1年あたり56,882円、1月あたり4,740円、年金額が増えることになります。
何年でモトがとれるか計算します
- 支払額 532,360円
- 年金額増額分 56,882円
- 532,360÷56,882=9.4年
- 65+9.4=74.4歳
- 65歳支給開始後9.4年、74.4歳でモトがとれることになります。
娘が年金を受け取るようになるときに、65歳から支給されるとは思えませんが…。
追納分は社会保険料控除の対象になります
会社員は年末調整で、自営業の人は確定申告で申告すると、社会保険料控除の対象となり、全額控除されます。
会社員の妻の追納分は、夫の年末調整で申告しても控除対象になります。
1月~9月までに追納すると11月に、10月~12月に追納すると2月に「社会保険料控除証明書」が届きます。それを添えて、年末調整か確定申告をします。
60歳以降に任意加入という方法もあります
自営業や退職している場合、60歳以降は国民年金保険料の支払い義務はなくなりますが、保険料納付月数が480月に足らない場合、65歳前まで、480月になるまで、国民年金保険料を支払うことができます。
この任意加入制度を利用して老齢基礎年金を満額に近づけることができます。私自身もこれを利用しています。
また、60歳以降も会社員として厚生年金に加入し続けると、老齢基礎年金は増えませんが、老齢厚生年金の「経過的加算」で補うことができます。
結局はそれぞれの考え次第かと思います
- 年金制度が信用できない
- 制度の変更で今後どうなるかわからない
- お金の余裕がない
- 別のことに使いたい
- 自分で運用して増やしたほうがいい
- 老後の安心はやはり年金だ
- 金銭的余裕がある
- できるだけ長生きに備えたい
私のように実際に年金を受け取る年代になると、年金の有り難みをしみじみと感じ、できるだけ年金を増やす方向で考えたほうがいいと考えますが、娘の年代ではまだピンと来ないかと思います。
いちおう追納を勧めていますが、果たして娘はどうするのでしょうか…