国民健康保険は年金生活を健康面で支えてくれる重要な仕組みです。
いっぽう、その保険料は介護保険料とあわせて、少なくない出費となります。
年金生活者の国民健康保険料についてはまとめました。
国民健康保険の内訳
国民健康保険料は世帯単位で算出し、世帯主が納付します。
国民健康保険料の内訳
- 医療給付費分(医療分)
病院を受診した際の保険給付費分や、出産育児一時金、葬祭費などに充てられる保険料 - 後期高齢者支援金等分(支援分)
75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度を支えるための保険料 - 介護納付金分(介護分)
介護保険制度を支えるための保険料。40歳以上65歳未満の人が納付します。
65歳からは介護分が国民健康保険から切り離される
65歳になると介護保険の被保険者資格が2号から1号になり、国民健康保険料に含まれていた介護分が世帯負担から切り離され、「介護保険料」として独立し個人負担になります。
- 介護保険1号被保険者(65歳以上)
原因を問わず、要介護、あるいは、要支援状態と認定されると介護サービスを受けらる。一人ひとりが「介護保険料」を納付する。 - 介護保険2号被保険者(40歳から64歳まで)
末期ガンや関節リウマチといった、加齢を原因とする病気が原因で要介護状態になったときに限り介護サービスを受けらる。国民健康保険の介護分として保険料を納付する。

75歳からは「後期高齢者医療制度」に移行
75歳になると「後期高齢者医療制度」に移行し、個人単位で「後期高齢者医療保険料」納付します。

国民健康保険料の算出方法
医療分・支援分・介護分それぞれに、応能割と応益割の賦課項目があり、市町村ごとに、4方式・3方式・2方式の賦課方式が決められています。
- 応能割…負担能力に応じて賦課
所得割・資産割 - 応益割…受ける利益に応じて賦課
平等割・均等割
賦課 項目 | 算出方法 | 4 方式 | 3 方式 | 2 方式 |
---|---|---|---|---|
所得割 | 世帯の所得×係数 | ◯ | ◯ | ◯ |
資産割 | 世帯の固定資産税×係数 | ◯ | ||
平等割 | 1世帯当たり定額 | ◯ | ◯ | |
均等割 | 1人当り定額×人数 | ◯ | ◯ | ◯ |
所得割額の算定方法
医療分・支援分・介護分それぞれの所得割額は以下の式で算定します。
- 所得割額=世帯の賦課標準合計×係数
賦課標準額=総所得金額等-基礎控除
「総所得金額等」は年金所得・給与所得・事業所得等と、分離課税として申告された株式の譲渡所得や配当所得・土地等の譲渡所得・山林所得等の合計所得金額になります。
収入が公的年金のみの場合の賦課標準額は以下の通り計算します。
- 賦課標準額
=年金収入-公的年金等控除-基礎控除
=年金収入-110万円-43万円
=年金収入-153万円
ただし、公的年金等控除額は、65歳以上、年金収入が330万円以下、公的年金以外の合計所得金額が1千万円以下の場合、基礎控除額は合計所得金額が2,400万円以下の場合
国民健康保険料の例
▼大阪市(令和4年度)
賦課項目 | 平等割 円/1世帯 | 均等割 円/1人 | 所得割 | 年間 限度額 |
---|---|---|---|---|
医療分 | 28,175 | 27,488 | 8.59% | 63万円 |
支援分 | 9,191 | 8,967 | 2.87% | 19万円 |
介護分 | 741 | 16,739 | 2.69% | 17万円 |
▼名古屋市(令和3年度)
賦課項目 | 均等割 円/1人 | 所得割 | 限度額 |
---|---|---|---|
医療分 | 38,903 | 7.04% | 63万 |
支援分 | 13,293 | 2.48% | 19万 |
介護分 | 16,367 | 2.47% | 17万 |
軽減措置
世帯の所得の合計が基準以下の場合に、均等割額と平等割額を減額し、保険料負担を軽減する制度があります。
軽減の割合は、世帯の所得の合計に応じて、7割軽減・5割軽減・2割軽減があります。
軽減判定基準額の算出方法
軽減判定基準額は、所得割の算出に用いる「賦課標準額」とは異なり、基礎控除額を差し引く前の所得を用います。
世帯主(国保加入者でない世帯主も含む)、国保加入者、国保から後期高齢者医療制度へ移行した同一世帯者の所得の世帯全体の所得を合計し判定します。
- 給与所得
判定額=給与収入-給与所得控除 - 年金所得
判定額=年金収入-公的年金等控除
65歳以上なら更に15万円を控除 - 事業所得
判定額=事業収入-必要経費
前年12月31日において65歳以上の公的年金受給者は、年金所得からさらに15万円を差し引き軽減判定します。
軽減判定基準額
軽減割合 | 軽減判定基準額 |
---|---|
7割軽減 | 43万円 +10万円×(人数B-1) |
5割軽減 | 43万円+28.5万円×人数A +10万円×(人数B-1) |
2割軽減 | 43万円+52万円×人数A +10万円×(人数B-1) |
- 人数A:国保加入者等の人数
国保加入者と国保から後期高齢者医療制度へ移行した同一世帯者の合計人数 - 人数B:給与所得者等の人数
給与収入が55万円を超える人、公的年金等の収入が60万円を超える65歳未満の人、公的年金等の収入が125万円(110万円+15万円)を超える65歳以上の人の合計人数。また、給与所得者の人数が0人の場合は、「人数B-1」を0とします。
令和3年度からの税制改正で、給与所得控除、公的年金等控除が一律10万円引き下げられ、結果として所得が10万円増えることになるので、軽減判定基準額が10万円引き上げられました。その際、「給与所得者等」に当たる人が世帯に2名以上いる場合、世帯全体の所得もさらに増加するので、「給与所得者等の人数から1を引いた数×10万円」を加えることにより、税制改正の影響を抑えるよう改正されました。
▼国保加入者「人数A=1人」の場合
給与所得者等 人数B | 7割軽減 | 5割軽減 | 2割軽減 |
0人 | 43万 | 71.5万 | 95万 |
1人 | 43万 | 71.5万 | 95万 |
▼国保加入者「人数A=2人」の場合
給与所得者等 人数B | 7割軽減 | 5割軽減 | 2割軽減 |
0人 | 43万 | 100万 | 147万 |
1人 | 43万 | 100万 | 147万 |
2人 | 53万 | 110万 | 157万 |
夫婦2人世帯の国民健康保険料を計算
大阪市在住の夫婦2人
- 夫65歳(介護1号)=年金収入200万円
- 妻60歳(介護2号)=給与収入100万円
この条件で、世帯の国民健康保険料を計算します。
夫は介護分はありませんが、かわって「介護保険料」を納付することになります。
国民健康保険料
- 夫の所得割賦課標準額
公的年金控除110万円
基礎控除43万円
200万-110万-43万=47万円 - 妻の所得割賦課標準額
給与所得控除55万円
基礎控除43万円
100万-55万-43万=2万円 - 世帯の所得割賦課標準額
47万+2万=49万円
軽減判定基準
- 夫の軽減判定基準額
公的年金控除110万円
65歳以上の減額15万円
200万-110万-15万=75万円 - 妻の軽減判定基準額
給与所得控除55万円
100万-55万=45万円 - 合計の軽減判定基準額
75万+45万=120万円
国保加入者2人、給与所得者等2人の軽減判定により、均等割額と平等割額が2割軽減になります。
国民健康保険料
賦課項目 | 算出式 | 本来保険料 | 軽減保険料 2割軽減 |
---|---|---|---|
医療分 所得割 | 49万×8.59% | 42,091 円 | 42,091 円 |
均等割 | 27,488×2人 | 54,976 円 | 43,981 円 |
平等割 | - | 28,175 円 | 22,540 円 |
支援分 所得割 | 49万×2.87% | 14,063 円 | 14,063 円 |
均等割 | 8,967×2人 | 17,934 円 | 14,347 円 |
平等割 | - | 9,191 円 | 7,353 円 |
介護分 所得割 | 2万×2.69% | 538 円 | 538 円 |
均等割 | 16,739×1人 | 16,739 円 | 13,391 円 |
平等割 | - | 741 円 | 593 円 |
合計 | 184,448 円 | 158,897 円 |
夫婦合わせて300万円の収入に対して約16万円の国民健康保険料になります。収入の5%強になり、大きな負担です。
年金からの特別徴収
国民健康保険料、介護保険料、個人住民税は、年金支給額から天引きして徴収されます。
特別徴収の対象者
- 当該年の4月1日現在において、65歳以上であること。
- 当該年の4月1日現在において、特別徴収の対象年の支払額が、年額18万円以上であること。
- 国民健康保険料の場合は世帯内の国保加入者全員が65歳以上75歳未満であること。
上の夫婦の場合は妻が60歳未満なので、納付書または口座振替による普通徴収になります。
まとめ
夫婦二人とも65歳以上で年金収入だけの場合、以下の年金収入で7割軽減になります。
- 夫の年金収入
=110万+15万+43万
=168万円 以下 - 妻の年金収入
=110万+15万
=125万円 以下