日経新聞「国民年金を厚生年金で穴埋め」という記事について

北アルプス 雲の平 トピックス

日経新聞9月28日
国民年金「5万円台」維持へ 厚労省、厚生年金で穴埋め

基礎年金の将来の支給額を今の物価水準で月5万円以上に保つことが厚労省で検討されているとのこと。

その原資として厚生年金の保険料を当てることが考えられているとのこと。

この記事の内容について詳しく見ていきます。

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老齢年金の支給額はマクロ経済スライドで調整されます

老齢年金の支給額は現役世代の人口減などを織り込んだ「マクロ経済スライド」で自動的に調整(減額)されることになっています。

この調整は保険料等の収入と年金給付等の支出の均衡が保たれるまで続けられることになります。

保険料・積立金・国庫負担】
          = 【年金給付等】

国民年金と厚生年金は財政単位が異なり、それぞれ財政が均衡するまで調整が行われます。

国民年金は相対的に財政力が弱く積立金不足により調整が長期化してしまいます。

公的年金資金の流れ
厚生年金保険料は厚生年金勘定へ、国民年金保険料は国民年金勘定へ、入金されます。それぞれの勘定に基礎年金支給額の1/2に相当する国庫負担金が入金され、基礎年金拠出金として基礎年金勘定へ入金されます。1階部分基礎年金は基礎年金勘定から支給されます。2階部分厚生年金報酬比例額は厚生年金勘定から支給されます。積立金は、厚生年金と国民年金で別々に積み立てられています。

調整終了は、基礎年金2046年・厚生年金2025年

2019年財政検証(2020年修正) の「人口:出生中位、死亡中位 経済:ケースⅢ(変動なし)」の試算による調整終了年度は、基礎年金が2046年度厚生年金報酬比例額が2025年になります。

マクロ経済スライド終了時期

この試算では、2046年の所得代替率は2019年に対して以下のような割合になります。

  • 厚生年金 24.5÷25.3=0.968倍
  • 基礎年金 26.5÷36.4=0.728倍

この「所得代替率」とは、いわゆるモデル年金世帯の夫婦二人が受け取る年金額の、現役男子の手取り収入額に対する比率のことです。

モデル年金世帯とは、夫が平均賃金で40年間働いたサラリーマンであり、妻が40年間第3号被保険者である夫婦二人世帯です。

厚生年金は夫の厚生年金報酬比例額、基礎年金は夫婦二人分の満額金額になります。

2019年の金額(月額)は以下の通りです。

  • 現役男子の手取り収入額:35.7万円
  • 夫婦二人の年金額   :22.0万円
    • 夫の厚生年金(報酬比例額): 9.0万円
    • 夫婦二人の基礎年金   :13.0万円
      (一人分の基礎年金満額:6.5万円)

2019年の基礎年金満額6.5万円に対して、調整が終了する2046年になると、基礎年金が2019年換算で6.5万円×0.728=4.7万円になってしまいます。

一人あたりの基礎年金が月額5万円を割ってしまいます。

調整終了を基礎年金と厚生年金で一致させる案

マクロ経済スライドの終了を基礎年金と厚生年金のそれぞれで実施すると、終了時期が大きく乖離し、基礎年金水準が大きく低下してしまいます。

そこで、厚生年金の調整を延長し、一方で基礎年金の調整を繰り上げ、終了時期を2033年に一致させて終了する案が検討されています。

マクロ経済スライド一致

この試算では、2033年所得代替率が2019年に対して以下のような割合になります。

  • 厚生年金 22.6÷25.3=0.893倍
  • 基礎年金 32.9÷36.4=0.904倍

この場合の2033年の基礎年金額は2019年換算で6.5万円×0.904=5.9万円となる計算です。

厚生年金の資金が基礎年金に回されることになる

厚生年金と基礎年金のマクロ経済スライド終了を一致させるために、厚生年金の資金を基礎年金に回すことになります。

厚生年金の調整を2025年以降に延長すると、厚生年金で年金支給に使われない資金が生じ、それを基礎年金の給付に回すということが考えられます。

また、厚生年金と基礎年金(国民年金)の積立金額に大きな違いがあります。

  • 2021年度決算後積立額(時価)
    • 厚生年金 194.1兆円
    • 国民年金  10.6兆円

厚生年金の積立金を基礎年金の支給に回すことも考えられます。

マクロ経済スライド終了を一致させる効果

日本の年金額は1階部分の基礎年金と2階部分の厚生年金報酬比例額から成り立っています。

基礎年金が低下すると、基礎年金の比率が高い低所得者の年金額水準が低下してしまいます。

また、基礎年金の半額は国庫負担になっていますが、基礎年金が低下すると国庫負担も低下し、総給付額も低下します。

マクロ経済スライド終了時期を一致させることによりこれらを防ぐことになります。

2021年度決算では、厚生年金保険料約33兆円のうち被保険者数の人数に応じて約10兆円を基礎年金給付の資金として拠出されています。

調整終了を2033年に一致させることにより、2025年以降厚生年金から基礎年金に拠出する負担割合が増えることになります。

実現までには紆余曲折が予想されます。

関連資料

2019(令和元)年財政検証結果レポート

厚生労働省追加提出資料
第86回社会保障審議会年金数理部会(2020年12月25日)