テレビ朝日の番組「林修の今知りたいでしょ! 年金の疑問 徹底調査!」という番組を見ました。
番組内では、以下の5つの年金の疑問について解説していました。
- 何歳からもらうのが一番得?
- 最高で月いくらもらえる?
- 払った額を上回るのはいつ?
- 年金で足りない人はどうしている?
- 未納期間がある年金の額は?
- 将来年金はもらえる?
これらの項目について、私なりに検証していきたいと思います。
この記事では、「1. 何歳からもらうのが一番得?」について検証していきます。
何歳からもらうのが一番得? 番組内では…
番組内では、元会社員(厚生年金)がもらえる平均年金額、月14.5万円、年間174万円を例にして、60歳から、65歳から、70歳から、75歳から、の受給額についてシミュレーションしています。
年金の支給開始は原則65歳ですが、繰上げすると60歳から、繰下げすると75歳から受給することができます。
繰上げ受給の場合は1ヵ月繰上げるごとに0.4%減額されます。
繰下げ受給の場合は1ヵ月繰下げるごとに0.7%増額されます。
▼受給開始年齢からもらえる年金額(年間)
受給開始 | 増減 | 年金額(年間) |
---|---|---|
60歳~ | 0.4×60ヵ月 24%減 | 174万×0.76 132万円 |
65歳~ | ー | 174万円 |
70歳~ | 0.7×60ヵ月 42%増 | 174万×1.42 247万円 |
75歳~ | 0.7×120ヵ月 84%増 | 174万×1.84 320万円 |
男性と女性で平均寿命まで生きた場合の年金累計受給額を比較しています
番組では上記の4つの受給開始年齢ごとの年金累計受給額を線グラフで伸ばして、面白く競わせています。
TVer 「年金の疑問 徹底調査!」8分20秒~
男性の平均寿命81歳、女性の平均寿命87歳として、平均寿命まで生きた場合どの受給開始が得になるかを比較しています。
▼平均寿命までの累計受給額
受給開始 | 男性の平均寿命 81歳までの 累計受給額 | 女性の平均寿命 87歳までの 累計受給額 |
---|---|---|
60歳~ | 132万×21年 2772万円 | 132万×27年 3564万円 |
65歳~ | 174万×16年 2784万円 | 174万×22年 3828万円 |
70歳~ | 247万×11年 2717万円 | 247万×17年 4199万円 |
75歳~ | 320万×6年 1920万円 | 320万×12年 3840万円 |
番組の結論としては、平均寿命まで生きたとして一番得なのは、
- 男性65歳
- 女性70歳
としています。
平均寿命でいいの?
番組内では、損得を判断するのに「平均寿命」を使っていますが、これには疑問を感じます。
厚労省からは「平均余命」という数字が発表されています。
「平均寿命」は0歳児の平均余命で、年金の損得を判断する場合は、60歳~75歳の「平均余命」で考えるべきではないかと思います。
令和5年に厚労省より発表された「令和4年簡易生命表」によると、主な年齢の平均余命は以下のとおりです。
▼平均余命(令和4年)
年齢 | 男性 平均余命(年齢) | 女性 平均余命(年齢) |
---|---|---|
0歳 | 81.05年(81.05歳) | 87.09年(87.09歳) |
︙ | ︙ | ︙ |
60歳 | 23.59年(83.59歳) | 28.84年(88.84歳) |
65歳 | 19.44年(84.44歳) | 24.30年(89.30歳) |
70歳 | 15.56年(85.56歳) | 19.89年(89.89歳) |
75歳 | 12.04年(87.04歳) | 15.67年(90.67歳) |
年金は、長生きに備える「保険」であって、損得を考えることに意味があるのかという意見もありますが…。
65歳時の年金額を100として累計年金額を計算しました
番組では元会社員がもらえる厚生年金の平均年金額174万円で計算しています。
年金額は個人個人でまちまちなので、65歳で受給できる年金額を100として、繰上げ、繰下げした場合の累計年金額を計算してみました。
▼受給開始年齢ごとの累積受給額
年齢 | 受給開始 60歳 | 受給開始 65歳 | 受給開始 70歳 | 受給開始 75歳 |
---|---|---|---|---|
60 | 76 | |||
61 | 152 | |||
62 | 228 | |||
63 | 304 | |||
64 | 380 | |||
65 | 456 | 100 | ||
66 | 532 | 200 | ||
67 | 608 | 300 | ||
68 | 684 | 400 | ||
69 | 760 | 500 | ||
70 | 836 | 600 | 142 | |
71 | 912 | 700 | 284 | |
72 | 988 | 800 | 426 | |
73 | 1064 | 900 | 568 | |
74 | 1140 | 1000 | 710 | |
75 | 1216 | 1100 | 852 | 184 |
76 | 1292 | 1200 | 994 | 368 |
77 | 1368 | 1300 | 1136 | 552 |
78 | 1444 | 1400 | 1278 | 736 |
79 | 1520 | 1500 | 1420 | 920 |
80 | 1596 | 1600 | 1562 | 1104 |
81 | 1672 | 1700 | 1704 | 1288 |
82 | 1748 | 1800 | 1846 | 1472 |
83 | 1824 | 1900 | 1988 | 1656 |
84 | 1900 | 2000 | 2130 | 1840 |
85 | 1976 | 2100 | 2272 | 2024 |
86 | 2052 | 2200 | 2414 | 2208 |
87 | 2128 | 2300 | 2556 | 2392 |
88 | 2204 | 2400 | 2698 | 2576 |
89 | 2280 | 2500 | 2840 | 2760 |
90 | 2356 | 2600 | 2982 | 2944 |
91 | 2432 | 2700 | 3124 | 3128 |
92 | 2508 | 2800 | 3266 | 3312 |
93 | 2584 | 2900 | 3408 | 3496 |
94 | 2660 | 3000 | 3550 | 3680 |
95 | 2736 | 3100 | 3692 | 3864 |
96 | 2812 | 3200 | 3834 | 4048 |
97 | 2888 | 3300 | 3976 | 4232 |
98 | 2964 | 3400 | 4118 | 4416 |
99 | 3040 | 3500 | 4260 | 4600 |
100 | 3116 | 3600 | 4402 | 4784 |
- 60歳受給開始は、65歳受給開始に80歳で追い越される
- 70歳受給開始は、65歳受給開始を81歳で追い越す
- 75歳受給開始は、65歳受給開始を86歳で追い越す
- 75歳受給開始は、70歳受給開始を91歳で追い越す
65歳時の平均余命で考えると、男性は84歳、女性は89歳の累計年金額で考えることになり、いずれも70歳受給開始の場合が一番得と言うことになります。
私見ですが、就労や貯蓄で70歳まで受給開始を繰下げられるなら、それが有利な選択肢になると思います。
また、75歳受給開始は、所得税、住民税、健康保険料、介護保険料が増額されることにもなり、70歳受給開始と比較して、それほど大きなメリットにならないと思います。
繰上げ受給の注意点
- 最大60歳まで1ヵ月単位で繰上げできる
- 65歳時の受給年金額に対して、1ヵ月につき0.4%、1年につき4.8%減額される
- 生涯にわたり減額された年金額を受給することになる
- 繰上げ請求した後は、繰上げ請求を取消しすることはできない
- 原則として老齢基礎年金と老齢厚生年金は同時に繰上げ請求をする必要がある
- 厚生年金基金等は老齢厚生年金とあわせて繰上げとなる
- 繰上げ請求すると、国民年金の任意加入・追納はできない
- 任意加入…60歳以降に国民年金保険料の未納分を納入できる制度
- 追納…申請して免除された国民年金保険料を納入すること
繰下げ受給の注意点
- 66歳以降最大75歳まで1ヵ月単位で繰下げできる
- 65歳時の年金額に対して、1ヵ月につき0.7%、1年につき8.4%増額される
- 老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げできる
- 厚生年金基金等は老齢厚生年金とあわせて繰下げとなる
- 繰下げを打ち切り、それまでの年金額(増額なし)を一括で受け取ることができる
- 年金額の増額により、所得税、住民税、健康保険料、介護保険料が増額されることに留意する必要がある
参考サイト
- TVer
林修の今知りたいでしょ!年金の疑問 徹底調査SP!
注)配信期限があります - 日本年金機構
年金の繰上げ受給
年金の繰下げ受給 - 厚生労働省
主な年齢の平均余命(PDF)