会社員が失職、退職すると1号被保険者となり国民年金保険料を納付することになります。
この国民年金保険料には保険料免除制度があり、収入が減った人は申請により免除を受けることができます。
また、後日免除された保険料を納付する保険料追納という制度もあります。
わたし自身、50歳台後半に離職してこの保険料免除制度を利用しました。その後、迷いましたが、年金額を増やすために保険料追納も利用しました。
この記事では、保険料免除制度と保険料追納についてまとめました。
申請免除の種類
収入の減少や失業等により国民年金保険料を納めることが経済的に困難な人は、申請することにより国民年金保険料の免除を受けることができます。これを「申請免除」といいます。
他に、障害年金受給者などを対象にした「法定免除」、出産する第1号被保険者を対象にした「産前産後の免除」などがありますが、ここでは「申請免除」について見ていきます。
申請免除の種類
申請免除は収入の程度により4種類に分けられます。
令和3年度の国民年金保険料は月額16,610円で、免除により納付する免除額は以下の通りになります。
免除の種類 | 納付額(令和3年度) |
---|---|
全額免除 | 納付ナシ |
4分の3免除 | 1/4納付 4,150円 |
半額免除 | 1/2納付 8,310円 |
4分の1免除 | 3/4納付 12,460円 |
申請免除の承認基準
申請免除は、本人・世帯主・配偶者の所得によって判断されます。
- 給与所得=収入-給与所得控除
- 事業所得=総収入-必要経費
申請する本人だけではなく、世帯主、配偶者も基準を満たす必要があります。親と同一世帯の場合、親の所得も基準を満たす必要があります。
1月から6月までに申請した場合は前々年所得で、7月から12月に申請した場合は前年所得で判断されます。
免除の種類 | 所得額の承認基準 (令和3年度) |
---|---|
全額免除 | (扶養親族等の数+1)×35万円 +32万円 |
4分の3免除 | 88万円 +扶養親族等控除額 +社会保険料控除額等 |
半額免除 | 128万円 +扶養親族等控除額 +社会保険料控除額等 |
4分の1免除 | 168万円 +扶養親族等控除額 +社会保険料控除額等 |
令和3年度より免除基準額が一律10万円引き上げられましたが、給与所得控除額が一律10万円引き下げられていますので、給与収入については実質の免除基準額は変わりません。
扶養親族等控除額について
国民保険料免除を審査する際の扶養親族の区分は「平成22年税制改正前」の区分を用いており、現在の税制の区分とは異なっています。現在、所得税・住民税の控除対象外となっている0~15歳も扶養親族に含まれ、16~18歳は特定扶養親族として計算されます。
▼扶養親族等控除額
- 70歳以上の配偶者または老人扶養親族1人につき…48万円
- 16歳以上23歳未満の扶養親族1人につき…63万円
- それ以外の同一生計配偶者または扶養親族1人につき…38万円
全額免除の承認基準
4種類の申請免除のうち「全額免除」の承認基準を所得ベース、収入ベースで詳しく見ていきます。
▼全額免除の承認基準
世帯 人数 | 所得ベース | 給与収入ベース 赤字は給与所得控除 |
---|---|---|
1人 | 35×1+32= 67万 | 122万 (67万+55万) |
2人 | 35×2+32=102万 | 157万 (102万+55万) |
3人 | 35×3+32=137万 | 207万 (137万+70万) 207万×0.3+8万=70万 |
4人 | 35×4+32=172万 | 257万 (172万+85万) 257万×0.3+8万=85万 |
▼給与所得控除(一部)
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
---|---|
1,625,000円まで | 550,000円 |
1,625,001円から 1,800,000円まで | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円から 3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
- 1人世帯の場合
給与収入が122万円以下なら、給与所得控除が55万円で、控除後の所得が67万円以下になる - 2人世帯の場合
給与収入が157万円以下なら、給与所得控除は55万円で、控除後の所得が102万円以下になる - 3人世帯の場合
給与収入が207万円以下なら、給与所得控除は207万円×0.3+8万=70万円で、控除後の所得は137万円以下になる - 4人世帯の場合
給与収入が257万円以下なら、給与所得控除は257万円×0.3+8万=85万円で、控除後の所得は172万円以下になる
失業した場合の特例免除
申請免除は、1月から6月までに申請した場合は前々年所得で、7月から12月に申請した場合は前年所得で審査されます。
失業した直後は、前年または前々年の所得では、免除の基準を満たさないので、失業した人を対象にした特例免除があります。
その場合、通常であれば審査の対象となる本人の所得を除外して審査を行います。
配偶者・世帯主がいる場合は、その前年、前々年の所得で審査されます。
免除期間の保険料納付済月数への算入
保険料を免除された月数は、そのままの月数が老齢基礎年金の 受給資格期間 に算入されます。
また、免除された月数のうち、「国庫負担分」に相当する月数と一部免除の場合は「一部納付分」に相当する月数の合計が 保険料納付済月数 に算入されます。
老齢基礎年金額は、平成21年3月分までは年金額の3分の1、平成21年4月分からは年金額の2分の1が「国庫負担分」として国の税金から補填されています。
申請免除では、その「国庫負担分」が年金保険料を納付したとみなされることになります。
例えば、平成21年4月以降の「4分の3免除」の月数が12ヵ月ある場合は、国庫負担分として6ヵ月、一部納付分として6×1/4=1.5ヵ月、合計7.5ヵ月が保険料納付済月数に算入されます。
▼納付済月数に算入される月数
免除の 種類 | 免除 期間 (月) | 資格 期間 (月) | 納付済期間 ~H21年3月 納付分 +国庫分 | 納付済期間 H21年4月~ 納付分 +国庫分 |
---|---|---|---|---|
全額 免除 | A | A | A×2/6 2/3×0+1/3 | A×4/8 1/2×0+1/2 |
3/4 免除 | B | B | B×3/6 2/3×1/4+1/3 | B×5/8 1/2×1/4+1/2 |
半額 免除 | C | C | C×4/6 2/3×1/2+1/3 | C×6/8 1/2×1/2+1/2 |
1/4 免除 | D | D | D×5/6 2/3×3/4+1/3 | D×7/8 1/2×3/4+1/2 |
なお、申請しないまま保険料を納付しない場合や、申請の結果免除が認められず納付しない場合は、保険料未納となって、その期間は納付済期間はもちろん資格期間にも算入されません。
保険料追納
免除された保険料は、10年以内であれば後日納付することができます。これを「追納」といいます。
追納することにより、 保険料納付済月数 を増やすことができます。
追納の条件
- 追納が承認された月から10年以内の免除期間に限られる
- 原則古い期間から納付
- 3年度目以降に保険料を追納する場合には加算額が上乗せされる
▼追納額(令和3年度)
追納年度 | 当時 保険料 | 全額 追納 | 3/4 追納 | 1/2 追納 | 1/4 追納 |
---|---|---|---|---|---|
H23(2011) | 15,020 | 15,350 | 11,510 | 7,680 | 3,830 |
H24(2012) | 14,980 | 15,200 | 11,400 | 7,600 | 3,800 |
H25(2013) | 15,040 | 15,180 | 11,380 | 7,590 | 3,790 |
H26(2014) | 15,250 | 15,330 | 11,500 | 7,660 | 3,830 |
H27(2015) | 15,590 | 15,650 | 11,740 | 7,820 | 3,920 |
H28(2016) | 16,260 | 16,310 | 12,230 | 8,150 | 4,070 |
H29(2017) | 16,490 | 16,520 | 12,390 | 8,260 | 4,130 |
H30(2018) | 16,340 | 16,360 | 12,260 | 8,180 | 4,080 |
R01(2019) | 16,410 | 16,410 | 12,310 | 8,200 | 4,100 |
R02(2020) | 16,540 | 16,540 | 12,400 | 8,270 | 4,130 |
保険料追納の損得は?
追納することにより老齢基礎年金をどれだけ増やせるのか検討しました。また年金を何年受け取るとモトが取れるかを計算してみました。
令和2年度分の追納額と令和3年度の老齢基礎年金額で計算しました。
- 令和3年度老齢基礎年金
年額 780,900円(満額)
(保険料納付済月数480ヵ月)
全額免除を1ヵ月分追納
- 追納額 16,540円
- 納付済月数は1/2ヵ月増加
(追納しなくても1/2ヵ月与えられる) - 増える年金額
780,900÷480×1/2=813円
- 何年・何歳でモトが取れるか
16,540÷813=20.3年
65歳+20.3年=85.3歳
追納した月数にかかわらずモトが取れるのは約20年です。85歳でモトがとれます。
4分の3免除を1ヵ月分追納
- 追納額 12,400円
- 納付済月数は3/8ヵ月増加
(追納しなくても5/8ヵ月与えられる) - 増える年金額
780,900÷480×3/8=610円
- 何年・何歳でモトが取れるか
12,400÷610=20.3年
65歳+20.3年=85.3歳
全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除、いずれの場合も、追納した月数に関わらず、追納した保険料のモトが取れるのは約20年、85歳になります。
追納は損?得?、平均余命から考えてみました
年金を長生きに対する「保険」と考えるなら、損得で考えるのもどうかとも思いますが、追納するしないの判断は損得で考えることになると思います。
平均余命という言葉があります。その年令の人が平均してあと何年生きるかという数字です。
厚生労働省発表の「令和元年簡易生命表」で65歳の男女について調べました。
- 65歳男性
平均余命19.83年、つまり寿命は約85歳 - 65歳女性
平均余命24.63年、つまり寿命は約90歳
追納は85歳でモトが取れるということなので、女の人はともかく、男の人は追納に意味があるのか微妙なところです。あくまでも数字の上の話ですが…
厚生労働省
令和元年簡易生命表の概況
主な年齢の平均余命(PDF)
私は悩んだ結果、追納しました。
保険料納付猶予制度
「保険料納付猶予制度」は上記の「申請免除制度」とは異なります。
申請免除制度では、失業などの理由で納付が困難な人であっても、収入のある世帯主と同居していると承認されません。
このような人が、将来の無年金・低年金となることを予防するために、同居している世帯主の所得にかかわらず、本人及び配偶者の所得によって納付が猶予される制度です。
ただし、納付猶予に認定された期間は、受給資格期間には算入されますが、保険料納付済月数には算入されません。「とりあえず払わなくていい」という制度です。
- 50歳未満の第1号被保険者が対象
- 本人及び配偶者それぞれの所得で審査
- 世帯主の所得は審査の対象外
- 1~6月申請の場合は前々年所得で審査
- 7~12月申請の場合は前年所得で審査
- 承認基準所得
(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円
(申請免除の全額免除と同じ基準)
学生納付特例制度
国民年金は20歳以上で強制加入となりますが、学生納付特例を申請すると、学生期間中、国民年金保険料の支払が猶予されます。
その期間は、納付猶予制度と同様に、受給資格期間には算入されますが、保険料納付済月数には算入されません。詳しくは以下をご覧ください。
猶予制度の追納は10年でモトがとれる
猶予制度、学生納付特例制度の利用期間は保険料納付済月数に算入されません。
よって、1ヵ月分追納すると保険料納付済月数が1ヵ月加算されます。
モトが取れる年数を計算すると以下の通りになります。
- 追納額 16,540円
- 納付済月数は1ヵ月増加
- 増える年金額
780,900÷480=1,627円
- 何年・何歳でモトが取れるか
16,540÷1,627=10.2年
65歳+10.2年=75.2歳
追納が承認された月から10年以内の期間について追納できます。余裕があれば、追納したほうがいいように思われます。