65歳からの年金収入には「211万円の壁」があります。
夫婦2人世帯で夫の年金が211万円以下になる場合、夫の個人住民税が非課税になります。
さらに妻も非課税なら住民税非課税世帯となり、様々なメリットがあります。
令和2年の税制改正により、公的年金等控除が一律10万円引き下げられ、令和3年度の住民税から適用されますが、住民税非課税の基準額が10万円引き上げられるので「211万円の壁」に変化はありません。
この「211万円の壁」について詳しく調べました。
「211万円の壁」とは
次の条件を満たす場合、夫の個人住民税が非課税になり、様々なメリットがあります。
- 夫婦二人世帯
- 夫は65歳以上
- 夫の公的年金が年額211万円以下
さらに妻の個人住民税が非課税であれば「住民税非課税世帯」ということになります。
ただし、級地制度により住民税の非課税基準が異なるので注意が必要です。
個人住民税の仕組み
個人住民税は個人にかかる税金です。一人ひとりの収入で算出します。
都道府県民税と市区町村民税の合計金額になります。
前年の収入により算出し、6月に金額が確定します。
1人当たり一定額の均等割と所得に比例する所得割の合計金額になります。
- 個人住民税=均等割+所得割
- 均等割:5,000~6,200円
- 所得割:課税標準額×10%
課税標準額=年金収入-公的年金等控除-所得控除
- 税額・税率は自治体によって異なる場合があります。
個人住民税の詳細は以下のサイトをご覧ください。

個人住民税の非課税基準
住民税の所得割を課税する場合は「課税標準額」を用いますが、住民税の非課税は基礎控除などの所得控除を引く前の「年金所得」で判断します。
- 年金所得=年金収入-公的年金等控除
- 公的年金等控除(年金収入330万円以下)
65歳未満…60万円
65歳以上…110万円
- 公的年金等控除(年金収入330万円以下)
「均等割」と「所得割」のそれぞれに非課税になる基準があります。
世帯人数
=本人+同一生計配偶者+扶養親族の人数
▼均等割 非課税上限所得
配偶者 扶養親族 | 均等割非課税上限所得 |
---|---|
なし | 45万円 |
あり | 35万円×世帯人数+31万円 |
▼所得割 非課税の上限所得
配偶者 扶養親族 | 所得割非課税上限所得 |
---|---|
なし | 45万円 |
あり | 35万円×世帯人数+42万円 |
「均等割」の基準の方が低いので、「均等割」の上限が住民税の非課税上限になります。
住民税が非課税になる年金額(65歳以上の場合)
公的年金等控除額は「65歳以上の場合110万円」となるので住民税が非課税になる年金額は以下の通りになります。
配偶者 扶養親族 | 住民税非課税 年金所得 | 住民税非課税 年金収入 |
---|---|---|
なし | 45万円 | 45+110 =155万円 |
1人 | 35×2+31 =101万円 | 101+110 =211万円 |
2人 | 35×3+31 =136万円 | 136+110 =246万円 |
3人 | 35×4+31 =171万円 | 171+110 =281万円 |
夫婦二人世帯で65歳以上の夫の年金収入が211万円以下なら、住民税が非課税になります。
これが年金収入「211万円の壁」です。
妻にパート収入がある場合…
夫婦2人世帯で住民税非課税世帯になるためには、当然妻も非課税になる必要があります。
妻にパート収入がある場合は、パート収入が100万円以下なら住民税が非課税になります。
パート収入100万円以下で住民税非課税
- 給与所得=給与収入-給与所得控除
- 給与所得控除
給与収入162.5万円以下で55万円
- 給与所得控除
給与収入が100万円以下なら、給与所得が100万-55万=45万円以下になって、住民税非課税になります。
所得税を算出する場合は基礎控除が48万円になるので、給与所得控除55万+基礎控除48万=103万円までが非課税になります。
所得税と住民税では非課税基準が異なるので注意が必要です。
級地制度による非課税金額
級地制度とは、地域ごとの物価や生活水準の差を考慮して、生活保護基準に地域差を設けている制度です。
級地制度により、地域ごとの住民税非課税基準が異なるので注意が必要です。
住民税非課税基準も級地制度に準じて、1級地、2級地、3級地の3段階に分けられています。
上記「211万円」は1級地の基準です。2級地、3級地は非課税基準が低くなります。
級地制度の例(広島県)
- 1級地 広島市、呉市、福山市、…
- 2級地 三原市、尾道市、府中市、…
- 3級地 竹原市、三次市、庄原市、…
生活保護基準の級地区分は以下を参照してください。
級地制度-Wikipedia
級地別 非課税上限所得
世帯人数
=本人+同一生計配偶者+扶養親族の人数
配偶者 扶養親族 | 1級地 | 2級地 | 3級地 |
---|---|---|---|
なし | 45万円 | 41.5万円 | 38万円 |
あり | 35万円 ×世帯人数 +31万円 | 31.5万円 ×世帯人数 +28.9万円 | 28万円 ×世帯人数 +26.8万円 |
1人 | 101万円 | 91.9万円 | 82.8万円 |
2人 | 136万円 | 123.4万円 | 110.8万円 |
3人 | 171万円 | 154.9万円 | 138.8万円 |
級地別非課税上限年金収入(65歳以上)
非課税上限の年金収入は、上記非課税上限所得に公的年金等控除110万円(年金収入330万円以下)を加えて求めます。
配偶者 扶養親族 | 1級地 | 2級地 | 3級地 |
---|---|---|---|
なし | 155万円 | 151.5万円 | 148万円 |
1人 | 211万円 | 201.9万円 | 192.8万円 |
2人 | 246万円 | 233.4万円 | 220.8万円 |
3人 | 281万円 | 264.9万円 | 248.8万円 |
夫婦2人世帯の夫の年金収入が住民税非課税になるのは、1級地では「211万円」ですが、2級地では「201.9万円」、3級地では「192.8万円」になります。
住民税非課税のメリット
住民税が非課税になると社会保険料などに色々なメリットがあります。
国民健康保険料
国民健康保険料は、所得割・均等割・平等割の合計金額になります。
均等割・平等割の部分が、所得金額によリ7割軽減・5割軽減・2割軽減の軽減措置があります。
軽減判定は世帯全体の合計所得金額で行われます。
前年12月31日において65歳以上の公的年金受給者は、年金所得から15万円を差し引いた額が軽減判定基準額になります。
夫婦2人世帯、夫が65歳以上、妻の所得は0円、2人とも国民健康保険に加入しているとした場合の軽減判定所得、年金収入は以下の通りです。
軽減種別 | 軽減判定 合計所得 | 軽減判定 年金収入 |
---|---|---|
7割軽減 | 基礎控除額 43万円 | 43+110+15 =168万円 |
5割軽減 | 43万円 +28.5万円×2 =100万円 | 100+110+15 =225万円 |
2割軽減 | 43万円 +52万円×2 =147万円 | 147+110+15 =272万円 |
国民健康保険料の軽減判定は「211万円の壁」で判定されるわけではありません。
168万円の壁、225万円の壁、272万円の壁の3つの壁があります。
介護保険料
65歳になると「国民健康保険」から切り離されて「介護保険料」単独での徴収になります。
以下の条件で保険料段階が設定されています。
- 本人の所得
- 本人の住民税課税・非課税
- 世帯の誰かの住民税課税・非課税
以下のページでは、本人が課税か非課税かで、年間26,000円の差が出る例が示されています。

高額医療費自己負担限度額
同じ医療機関で同じ月の中で限度額を超えて負担金を支払ったときは、超えた額が高額療養費として支給されます。
この自己負担限度額が、市民税非課税世帯の場合に低く設定されています。
支給される高額療養費
=高額医療費-自己負担限度額
▽70歳未満の被保険者の場合(一部)
所得区分 | 自己負担限度額 月額 | |
---|---|---|
直近12ヵ月で 3回目まで | 直近12ヵ月で 4回目まで | |
住民税非課税世帯 | 35,400円 | 24,600円 |
総所得金額 210万円以下 | 57,600円 | 44,400円 |
※総所得金額とは世帯の合計所得です。一人ひとりの所得は、「年金収入-110万-43万」で計算されます。
※過去12か月間に、一つの世帯で高額療養費の支給が4回以上あった場合、4回目以降の限度額を超えた分が支給されます。
詳しくは以下のページをご覧ください。

臨時福祉給付金
平成26年4月の消費税率の引上げによる影響を緩和するため、暫定的・臨時的な措置として、平成26年度から29年度に「臨時福祉給付金」の支給が行われました。
対象は住民税(均等割)が非課税の人になります。ただし、課税されている方に生活の面倒を見てもらっている場合などは対象となりません。
今後同様な措置がある場合、住民税が非課税なら支給対象になると思われます。
プレミアム付き商品券
2019年10月、住民税非課税世帯は、消費税増税に合わせて発行される「プレミアム商品券」が購入可能になりました。
額面25,000円分の商品券が20,000円で購入できました。

その他の非課税メリット
自治体により、住民税非課税の世帯にはさまざまな特典があります。
- 「高額介護サービス費」の利用者負担の軽減
- 介護施設入居者の住居費・食費の軽減
- インフルエンザ予防接種の費用の軽減・無料
あえて年金繰上げ受給も…
公的年金の受給額が211万円をわずかに超える場合は、あえて繰上げ受給の手続きをして年金額を下げる方法もあります。1カ月繰上げるごとに0.5%ずつ受給額が下がります。
あえて年金額を下げて住民税が非課税になるようにして、非課税メリットを利用して実質の手取り額を増やす方法です。