老齢厚生年金報酬比例部分は、厚生年金加入期間の総報酬額に比例して算出されます。
その総報酬額を算出するとき、過去の報酬額に再評価率を乗じて現在の手取り賃金水準に換算します。
再評価率は、毎年度年金額改定率により改定されますが、年金額改定率にはマクロ経済スライド調整率が織り込まれており、再評価後の報酬額が調整され、年金額の伸びが賃金や物価の伸びよりも抑えられています。
この再評価率を詳しく調べてみました。
報酬比例部分を算出した計算シート
私自身の、令和3年度の報酬比例部分を算出した計算シートです。赤枠部分が「再評価率」です。
年度ごとに 標準報酬月額 と 標準賞与額 を合計し、支給年度ごとに定められた「再評価率」を乗じて、年金額を算出する際の報酬額に換算します。
報酬年度 | 報酬額 | 本来水準 再評価率 | 再評価 報酬額 |
---|---|---|---|
昭和56年 | 1,736,000 | 1.545 | 2,682,120 |
: | : | : | : |
平成05年 | 4,360,000 | 1.048 | 4,569,280 |
: | : | : | : |
平成15年 | 7,100,000 | 0.977 | 6,936,700 |
: | : | : | : |

報酬比例部分の算出方法
報酬比例部分の算出方法には、本来水準と従前額保障の2種類の算出方法があります。
文字通り、本来は本来水準の年金額が支給されますが、従前額保障の年金額のほうが大きい場合はそちらが支給されます。ここでは本来水準の算出方法で説明します。
私自身の平成15年~20年の報酬額で年金額を計算します
平成15年度から、報酬額を計算する際賞与を含める「総報酬制」が導入されました。それから退職する平成20年度までの6年間の報酬額に相当する年金額を計算します。
年度 | 標準報酬額 年度合計 | 月数 | 再評価率 | 再評価後 標準報酬額 |
---|---|---|---|---|
H15 | 7,100,000 | 12 | 0.977 | 6,936,700 |
H16 | 6,700,000 | 12 | 0.978 | 6,552,600 |
H17 | 6,250,000 | 12 | 0.980 | 6,125,000 |
H18 | 5,370,000 | 12 | 0.980 | 5,262,600 |
H19 | 4,920,000 | 12 | 0.977 | 4,806,840 |
H20 | 4,510,000 | 11 | 0.961 | 4,334,110 |
計 | 34,850,000 | 71 | - | 34,017,850 |
実際の標準報酬額の合計は34,850,000円ですが、再評価率により34,017,850円に換算されます。これを月数で割って月平均の標準報酬額を算出します。
- 平均標準報酬額
=標準報酬額合計÷月数
=34,017,850÷71=479,125円
- 本来水準年金額(総報酬制導入後)
=平均標準報酬額×5.481/1000×月数
=479,125×5.481/1000×71
=186,452円(年額)
実際は、以下の式で算出できます。
- 本来水準年金額(総報酬制導入後)
=標準報酬額合計×5.481/1000
=34,017,850×5.481/1000
=186,452円(年額)
結局、報酬比例部分の年金額は再評価後の総報酬額の5.481/1000になります。
再評価率の変遷
総報酬制が導入された平成15年度から令和3年度までの各年度の報酬額に乗ずる再評価率について、令和元年度から令和3年度までの変遷を表にしています。
支給年度▷ ▽報酬年度 | 令和01年 | 令和02年 | 令和03年 |
---|---|---|---|
平成15年 | 0.976 | 0.978 | 0.977 |
平成16年 | 0.977 | 0.979 | 0.978 |
平成17年 | 0.979 | 0.981 | 0.980 |
平成18年 | 0.979 | 0.981 | 0.980 |
平成19年 | 0.976 | 0.978 | 0.977 |
平成20年 | 0.960 | 0.962 | 0.961 |
平成21年 | 0.972 | 0.974 | 0.973 |
平成22年 | 0.977 | 0.979 | 0.978 |
平成23年 | 0.980 | 0.982 | 0.981 |
平成24年 | 0.981 | 0.983 | 0.982 |
平成25年 | 0.983 | 0.985 | 0.984 |
平成26年 | 0.955 | 0.957 | 0.956 |
平成27年 | 0.950 | 0.952 | 0.951 |
平成28年 | 0.953 | 0.955 | 0.954 |
平成29年 | 0.948 | 0.951 | 0.950 |
平成30年 | 0.938 | 0.941 | 0.941 |
令和01年 | 0.938 | 0.936 | 0.936 |
令和02年 | 0.936 | 0.936 | |
令和03年 | 0.936 |
例えば、平成15年度の報酬額を1000万円とすると、再評価率によって支給年度ごとに以下のとおりに換算されます。
▽平成15年度報酬額1000万円の再評価額
支給年度 | 令和01年 | 令和02年 | 令和03年 |
---|---|---|---|
再評価率 | 0.976 | 0.978 | 0.977 |
再評価報酬額 | 976万円 | 978万円 | 977万円 |
再評価率の算出方法
支給年度ごとの再評価率は毎年度定める年金額改定率によって算出されます。
- 新年度再評価率
=前年度再評価率×年金額改定率
平成15年度報酬額の令和3年度再評価率0.977は以下の通りに改定されています。令和3年度の年金改定率はマイナス0.1%(0.999)です
- 平成15年度報酬額の令和3年度再評価率
=令和2年度再評価率×年金改定率
=0.978×0.999
=0.977
年金改定率の詳細は以下の記事を参照してください。

3年度前~当年度の再評価率は別計算になります
4年度前までの再評価率は上記ルールで算出しますが、3年度前~当年度の再評価率は別の計算になります。
令和3年度の再評価率の場合、平成30年度・令和元年度・令和2年度・令和3年度の報酬額に乗ずる再評価率は、「前年度再評価率×年金額改定率」になっていません。
令和3年度の報酬額は6.4%減で計算されます
令和3年度の報酬額の令和3年度の再評価率は0.936になっています。
すなわち、仮に令和3年度の報酬額が1000万円の場合、年金を計算するときは936万円として計算されるということです。6.4%、64万円も減額されます。
その年の報酬額がその年の支給額を計算するときに6.4%減額された報酬額に換算されるというのは腑に落ちないところです。
そもそも再評価率は過去の報酬額を現役世代の手取り賃金の上昇率に応じて見直すために設けられています。
物価や手取り賃金が上昇を続ける場合は再評価率は1.000より大きくなっているはずですが、バブル崩壊とその後に続くデフレの影響で、物価や賃金の上昇が抑えられ、平成8年度(1996年)以降の報酬に対する再評価率は1.000より小さい数字になっています。
さらに、平成17年度(2005年度)からマクロ経済スライド調整が導入され、平成27年度(2015年)、令和元年度(2019年)、令和2年度(2020年)の3回発動されました。
令和元年度は、前年に実施できなかった調整率(-0.3%)と令和元年度の調整率(-0.2%)とあわせて発動されました。本来は、 新既裁定年金 は賃金変動率(令和元年度+0.6%)で改定されるところ、調整が加わり結局令和元年度の年金改定率は+0.1%になりました。
マクロ経済スライド調整率が発動されると、その年度だけではなく次年度以降の報酬額にもかかかってきます。
